〈地方医と地方弁護士〉
地方で開業する医師(「地方医」と呼ぶこととする)と、地方で開業する弁護士には、商売という面においても、社会的使命という面においても似ているところがある。地方医と地方弁護士の商売の面の類似性について着目し、地方弁護士より人数も多く、仕事量も多く、社会との関わりが多い地方医から学ぶ点は沢山あり、地方医から学びたい。
病院には、国立病院や大学病院といった大きな病院、専門分野に特化した専門病院などもあるが、ここで述べる地方医というのは、地方で個人病院を経営する医師のことである。地方弁護士が学ぶ医師は、地方医である。
地方都市で開業する個人病院と、地方で開業する弁護士事務所には、経営というか商売面において、地方医の方が、その規模等が大きいが似通ったところがある。
商売という面では、地方医は平成18(2006)年に廃止されるまで税務署が公表していた「高額納税者番付」、通称「長者番付」に名前が載るのが当たり前となっていた。医師ほどではないが、地方弁護士も何人か番付にその名前が載っていた。所得税の場合は、所得税額が1000万円超の者が対象だったと記憶している。
最近はどうであろうか。長者番付は公示されなくなったが、今公示しても昔と変らないのであろうか。裏付け資料はないが、今、長者番付が公示されたら、地方弁護士は、その数もその所得税額も大きく減少しているのではないか、という気がする。地方医はどうであろうか。
気仙沼においても一関市においても、長者番付に名が載る地方弁護士は、一人もいないような気がする。多額の所得税を払う弁護士はいないと確信する。既に地方弁護士の商売の現況について述べた通り、地方弁護士事務所の経営は厳しい状況にあると確信している。長者番付に載るような地方弁護士はいないと思われる。
ある地方医は、地方の人口減による患者の減少と、交通機関の発達による大都市の病院への通院が容易になったことにより、大都市の大きな病院や専門病院へ、地方の患者が流出していることなどで患者の減少により、地方医の商売は以前と比べれば苦しくなっていると言ったことがある。地方医と接する機会の多い身としては、それは嘘とは思えない気がする。
私の事務所には、地方医が多く出入りしているが、その誰もがそのようなことを言うのだから、資料を調べたものではないが、地方医の商売面は、以前より厳しい状況となっていることは間違いにないと思われる。後継者問題なども絡んでいるが、廃業する地方医も少なくない。かつてはあまり見られなかったが、最近ではよく見られるし、耳にも入る。
地方医と地方弁護士の商売の現状は、どちらも以前と比較すれば、厳しい状況になっているという印象は否定できない。その根本的な原因は、少子化や人口の流出などによる地方の人口の減少にある。これは、個々の地方医や地方弁護士の努力によって解決できる問題ではなく、個々の地方医や地方弁護士には、手の打ちようがない。
しかし、そういう中においても、個々の地方医や地方弁護士として商売を繁盛させるために、どうしたらよいかの打開策を考えなければならない。この論稿は、地方弁護士に関する論稿である。地方弁護士は、地方医から学べる点が沢山ある。地方弁護士は、地方医から学ぶことは身近でやりやすい方法であり、やらなければならないことと確信している。
〈「家庭医」という存在〉
地方弁護士の商売という面を考える場合、地方医の商売のやり方を参考にすることは大変意味深い。地方医と地方弁護士は、その社会的使命という面においても共通性があるが、商売という面においても共通点が多い。そこにも学ぶ点が多くある。
地方医の商売のやり方の一つに「家庭医」という看板を出しているケースが見られる。インターネットなどで宣伝しているケースも見られる。この考え方には、深く共鳴する。地方弁護士は、家庭医のような存在となるべきではないかという思いが強く湧いている。家庭医という考え方は、地方弁護士の商売を考える場合に大いに参考となる。
ある地方医院のパンフレット(案内書)には、次のようなキャッチフレーズ(謳い文句)があった。
「当院は地域に根差す『家庭医』として、病気に限らず、育児の心配、介護の不安、そして日常の健康相談まで幅広く皆様が気軽に相談できるように心がけています。お出で下さるのをお待ちしています」
「家庭医」という言葉は素晴らしい。親しみを覚え、身近に感じられる。この考え方を見習って、地方弁護士も家庭医的な存在になるべきではないだろうかという思いが湧いてきた。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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