〈強きをくじき、弱きを助ける存在〉
弁護士の社会的使命は、人命と人権を守ることにあり、地方弁護士の社会的使命も人命と人権を守ることにある、と語ってきた。地方弁護士は、今この世の中にあって、言いたいことを十分に言えない地方住民に代わって、地方住民の人命と人権が侵害されないように、弱い者を助け、強い者の一方的な勢いを抑え、弱い者の言い分を主張してやるということが、人命と人権を守る具体的なやり方であると確信する。
それを一言で言うと、「強きをくじき、弱きを助ける」ということになる。地方弁護士となって半世紀を超えたが、強きをくじき、弱きを助けるという社会的使命を果たしてきたであろうか。いつもそのようにありたいとは思ってきたのだが、どこまでやれてきたかは、自分にも分からない。これから先は、このようにして強きをくじき、弱きを助けたい、という思いを述べてみる。「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という哲学の実践として、そうしたい。
地方弁護士の究極の社会的使命は、これまで述べてきた通り、人命と人権を守ることにあるが、これを実現するためには強きをくじき、弱きを助けることをしなければならない。自分勝手で乱暴でわがままな要求をする強い立場にある者の、弱い者に対する圧力を挫いてやらなければならない。その勢いを抑えて、弱めなければならない。そして弱い者の言い分を、強い者に対して十分に主張してやらなければならない。国の機関や世間に、弱い者の人命と人権の大切さを知らさなければならない。
個々の地方住民は、弱い立場にある。国家機関に対しても、大企業や大組織に対しても、そして本来は仲間であるはずの世間に対しても、個々の地方住民は、弱い立場に立たされることがある。強い立場にある者から、不当な圧力を加えられても、個々の住民は、それに対抗する力はない。一方的に強い者に押し切られてしまう。個々の住民が多くの人の集まりである団体と争うような場合は、個々の住民は数に押し切られてしまう。数で押し切られることのないように、個々の住民の言い分を言い尽くしてやることは、地方弁護士の役割である。
特に心したいのは、世間というものに対し、弱い者を守ってやりたいということである。世間は、普段は地方住民や地方弁護士の仲間とも思えるが、時には個々の住民の敵ともなることがあり、その場合は、世間は弱い個人にとって恐ろしい存在となることがある。このような本当の姿が分からない怪しげな感じがする世間という存在に対しても、個々の地方住民は弱い立場にある。世間を敵に回したら、個々の住民は一方的にいじめられることになりかねない。
この世間に対して、個々の住民を守ってやることは、地方弁護士の社会的使命である。世間からいじめられているような地方住民がいたら、それを助けることは、地方弁護士の社会的使命である。この認識は、世間に知ってもらわなければならない。世間という強い者から、個々の地方住民という弱い立場の者を守ることは、弁護士の使命であることを強調したい。世間は、個々の地方住民にとって、時には強い味方となるが、時には怖い敵ともなる。
〈地方弁護士の「月光仮面」的役割〉
地方弁護士は、弱い個々の地方住民が国家、地方、大組織、各種の圧力団体、世間などの強い相手と争うことになった場合、個々の地方住民を強い立場にある存在から、誰かが助けてやらなければならないという状況となったら、地方弁護士に地方住民を助ける社会的使命があることを自覚するとともに、世間にも認識させなければならない。最近その認識が弁護士にも、世間にも薄くなっている気がする。改めて地方弁護士は、強きをくじき、弱きを助けることが社会的使命であることを強調したい。
マンガの世界なら、「月光仮面のオジサンは正義の味方だ、いい人だ」という存在が登場することになるが、現実の世界では、政治家に月光仮面の役を期待したいが、あまり当てにはならない。むしろ時には、弱い者の苛めの先頭に立つことさえありそうだ。そこで、その役割は誰が果たすべきかという問題が生じる。
地方においては、強きをくじき、弱きを助ける役割は、地方弁護士が果たさなければならない。弁護士法第1条の「弁護士は社会正義を実現することを使命とする」という規定の意味は、砕いて言えば、弁護士に「月光仮面のオジサンのような存在になれ」と言っているようにも思える。地方弁護士は、強きをくじき、弱きを助ける存在となりたい。
弁護士法第1条のいう「社会正義」とは、弱い者を守るということである。地方弁護士は、弱い者を守る使命がある。国家や団体や世間などという強い者から個々の国民、個々の住民の命と人権を守るのが弁護士の社会的使命である。したがって、それは地方弁護士の社会的使命でもある。
地方弁護士は、月光仮面的役割をはたさなければならない立場にある。強きをくじき、弱きを助けなければならない社会的使命があると確信している。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~24巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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