司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 〈大企業・国・裁判所に納得できない遺族の気持ちを代言〉

 これまで地方住民の代言人となって、国や地方公共団体に対し裁判を提起し、裁判の中で地方住民の言い分を代わって述べたが、それだけでは不十分であり、主権者である国民や地方住民に駄弁本を発行し、地方住民の言い分を代言したことは少なくない。裁判では結論が出たが、それには納得できずに、本にして世の中に問題を投げかけ、国民や地方住民の判断を仰いだことは少なくない。

 その代表的な例を挙げると、国に対しては「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録――」と「岩手県奥州市の2つの住民訴訟」がある。

 福島原発問題は、間もなく100歳の誕生日を迎えることを待ち望んでいた老人が、福島原発事故の際に、最後まで避難できず、最後になって医療設備のないバスで長時間、長距離移動を強いられ、移動先で100歳の誕生日を待たずに亡くなったという事例で、その老人の遺族の悔しい気持ちも代言した。

 一審の東京地裁も、二審の東京高裁も被告の東京電力からお悔やみ金を出してもらい和解をしたらと勧めたが、遺族の気持ちは収まらず、最高裁まで争ったが、老人の死は老齢や既往症によるところもあり、原発事故だけによるものとは言えないとして敗訴した。

 しかし、遺族の気持ちは収まらない。これまでの交通事故事件や、医療過誤事件と同じ過失論や因果関係論だけで、原発事故を裁くことは間違いではないかという思いもあり、そもそも原発という人間の力でコントロールもできない危険なものの存在を許してよいのか、主権者である国民に裁いてほしいとの思いの強い遺族の気持ちを代言するため駄弁本を発刊し、今、その続編を書いている。

 既に発行済みの「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録――」では、原発事故発生から老人の死までをドキュメンタリーとして実際にあったことをそのまま伝えることに力を入れた。

 実際にあったことを国民に知ってほしいというのが、遺族の本当の希望だった。何でもカネで解決するという大企業や国や裁判所のやり方に納得できない遺族の気持ちを代言しなければならないという思いで、第一巻ではまず、実際にあったことを国民に知ってもらうことを中心に述べた。続編では、原発は人命と人権を究極の価値とする憲法下で許されるものかどうかについて考えてみたい。国民に考えてもらいたくて、その問題を投げかけたい。

 大企業、国、そして裁判所の考え方と、一般大衆との考え方のズレを明らかにしたい。そして、それを読んでもらい、最終的には主権者である国民の判断を仰ぎたいというクライアントの気持ちを代言し尽くしたい。「原発は コントロールできない 鉄人28号」と詠んだが、そのような危険な存在を、国民は望んでいるのかどうかを確かめたいというのが、このクライアントの真意である。


 〈主権者である国民の判断を仰ぐ道〉

 「岩手県奥州市の2つの住民訴訟」は、既にその1からその3まで発行した。いまその総仕上げとして、その4を書いている。奥州市長の行政は、独善的で市民の意思に反しているとして、駐車場用地事件と学校用地事件の2件について、市長に、市に損害賠償をするように求めた裁判であった。

 市長の行動は、一部の団体と市長選挙絡みの利害関係があり、一部の者のために有利な取り扱いをなしていて、その結果、市に損害を与えているとして、心ある住民らからの依頼により訴訟を提起した。一審の盛岡地方裁判所では、一つは住民側が勝訴し、他の一つは住民側が敗訴した。仙台高等裁判所ではいずれも市長の裁量権の範囲内として、住民側敗訴となった。最高裁判所は、高裁の判断は憲法に違反していないとした。

 訴訟を提起した住民や、その支援者の気持ちは収まらない。裁判所がどう言おうと、市長の行動は納得できない。内容を十分に検討しないで、法律の理屈で片付けた裁判には納得できない。しかし、最高裁判所がそう判断した以上、裁判ではもう争えない。裁判の他に市民のこの気持ちを伝える相手はいないのかと考える。考えれば、道は開ける。主権者である国民の判断を仰ぐ道がある。

 憲法に従って考えればよい。憲法は第92条で、地方自治の基本原則を定めている。それには、「地方自治の本旨に基づいて」と明記している。地方自治の本旨とは、団体自治と住民自治の二本柱となっている。二本柱の一つである住民自治とは、地方自治の最終的意思決定者は、地方住民であるという意味である。だから、最終意思決定権者である地方住民に訴えればよい。

 その方法としては、講演会や本の発行が考えられる。早速、奥州市民を対象にした講演会を開催した。「岩手県奥州市の2つの住民訴訟」と題する駄弁本を3冊発行した。その中で裁判所は、市長の当該行為を市長の裁量権の範囲内にあると判断したが、奥州市民としては、そんな身勝手な市長の行動を裁量権の範囲内などとして許してはいけないことを強調し続けた。

 その効果によるものかどうかは定かではないが、令和4(2022),年3月6日に行われた奥州市長選挙においては、裁判の被告とされた市長は、訴訟を提起した市民やそれを支援し、推した新人立候補者に大敗するという結果になった。奥州市民は、裁判所の判断は受け容れられないということを選挙という機会において明らかにした。まさに住民自治を実現した。

 地方弁護士は、地方住民の代言者として、地方住民に代わって語ってやるという社会的使命があるが、語ってやる相手は、裁判所に限らず、最終的には主権者である国民であったり、地方住民であったりする。裁判所だけを相手にしている時代ではない。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~24巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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