司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 〈21世紀日本が変わる 法律の世界も変わる〉

 司法制度改革の行方は未だ定かではない。しかし今回の司法制度改革は、司法という閉ざされた観念共同体の一角を崩す大きなきっかけとなった。西欧の近代を模倣し始めた明治維新以後形成された日本人の司法という一種の観念共同体が崩れ始めたのである。それは、個人の尊厳と自由回復へ向けての後戻り出来ない、私から見れば大きな一歩だった。

 この国は決して本来の意味の民主主義、国民主権の国ではない。それに私が気付いたのは、司法書士団体という強制加入団体に、生活のために入会した時のことだった。この強制加入団体のガバナンスと構成員との関係、高い懲罰権付きの会費納入義務の履行を通じて、この団体が、他ならぬ国家類似のシステムであるということに気付いた。そして又このような団体内部では容易に人権侵害の危険が生じ得るということも分った。

 組合内、企業内、政党内、大規模自治団体組織内部においても同様の危険が生ずるが、契約関係にない強制加入団体ではその危険が一層大きくなる。河野法律新聞元編集長の司法制度改革批判と日本の弁護士制度への愛着のベースにはオールドリベラリストの理想と原理に対するこだわりがあるのだろう。

 プロシャに範をあおいだ明治以来の公務員含む法律観念共同体は、戦後左翼系と保守系とに別れ、言論界の大勢は左翼系に流れていった。そしてそのいずれもが、大衆や大衆文化に対し、今ではAKB48のような文化に対し、選良知識人としてのプライドと区別を持っていた。やせたソクラテスの地位がいよいよコケ始めるのは、大量生産大量消費の(麻生さんがフェアレデーに乗って京浜を駆け回り始めた)60年代後半から70年代にかけてのことである。

 しかし、戦後の法律観念共同体は左翼系であろうと保守系であろうと、本音とその好悪は別として、民主主義を現代日本人共通の価値観、原理として認めていた。その日本における観念共同体、ドイツ語文明が支配的であったこの戦後観念共同体が、完全に崩壊したのは、社会主義崩壊と時を同じくしてのことであり、それ以来、知識人という存在も、階層も消えてしまったのだ。富める大衆に無視された結果であった。

 政治学者、森 政稔氏はその著「変貌する民主主義」(ちくま新書)で、戦後左翼系知識人たちの信奉していた上述の民主主義を、この「社会主義崩壊」が、実は2種類の民主主義の合体したものであったことを、明らかにしたという。戦後民主主義は、人民民主主義派と自由民主主義派の両派の合体したもので、保守派の民主主義は資本主義民主主義であり、伝統主義保守派はすでに大半が墓場に入ってしまっていた。

 人民民主主義派と自由民主主義派は、仲は決して良くなかったがどちらも戦後憲法擁護派ではあった。しかし1990年代から左翼政党や労働組合を背にした人民民主主義派の旗色が悪くなっていった。団体、特に言論界を支配していたのは人民民主主義派であり、その権力的な手法や支配層との裏取引、鼻持ちならない左翼の知的エリート主義は、豊になり始めた大衆から、総スカンを食い始めるのである。というよりも無視されるようになって行くのであった。

 私もそうであるが、レーガン・サッチャー時代にミルトン・フリードマンの著書「選択」を読んで、しびれる様な快感を覚えた人は多いだろう。社会主義崩壊をまたず、その10年前から始まっていた情報革命、知識産業革命時代の到来を背景に、自由民主主義派は人民民主主義派と袂を分かち、ジョンロック、アダムスミス、リカードからハイエクにいたる古典的自由主義の原理の復活、ケインズ主義との決別、人権の真の価値回復に向かって行くのである。カモメのジョナサンは飛び立った。

 今や人民民主主義派は大量生産大量消費社会の受益者、既特権者を代表し、自由民主主義派を、格差と貧困を当然視する自由原理主義の悪党、小泉竹中一派として、くくりこみ腹の虫を納得させている。大量生産大量消費社会の受益者、今や既特権者となった人民民主主義派を代表しているのが、日本では民主党のお歴々、松下政経塾の方たちということなのだろうか、民主党の幹部には仙石氏、枝野氏など、旧左翼、旧全共闘系世代の弁護士や、法曹界出身者も結構いる。

 今、変動の波にさらされる日本の民主主義、日本の司法も司法制度改革も、以上のような環境に取り囲まれているのだ。日本国憲法の建前にも関わらず、日本の民主主義には、自由と個人の観念が欠落している。小学校にあっては、教師が見てはいけないTV番組を生徒の多数決で決めたりする。それをいぶかしむ人はいない。

 事務所午後4時、初夏の風が涼しい、カンビール2本飲んでいい気持ちだ。



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