「過払い金返還請求の手順は、一般的に、弁護士や司法書士が代理人となって消費者金融会社に依頼人との取引履歴の開示を求め、過払い金を取り戻す。ただ、このやり取りの中では、消費者金融側との話し合いや交渉、裁判に持ち込まなければならない事態などの“面倒”な作業は、最高裁判所の判決が出たおかげでほとんど発生しなかった」とダイアモンド・オンライン編集部・片田江記者は言う。
この記者の事実認識には、多少の解説が必要だ。判決の積み重ねで多くの利息制限法違反事件についての論点に関し、決着が付いて来たから法廷での債務者側への救済が容易になってきた事は事実である。しかし、「“面倒”な作業」が減ったとは言えない。この数年は、過払い金請求事件の増加に対して、消費者金融会社側も損害拡大の抑制に真剣な努力を傾けるようになっている。請求金額の50%減額や、支払いの半年据え置きといった要求を多重債務者側に要求することが当たり前となった。
この債権者側の要求を拒否し、債務者側の権利を実現するためには、依然として法廷に救済を求めなければならず、私の事務所に関してみればむしろ最近は裁判が増えているのである。
過払い請求事件を大量に受注し、債務者の利益を軽視して事件解決を早め、収益の早期回収と現金の回転を早めることにより利益率を高めるようにすれば、確かに「裁判に持ち込まなければならない事態などの“面倒”な作業」は避けた方が良いに決まっている。
片田江記者は、「消費者金融側との話し合いや交渉、裁判に持ち込まなければならない事態などの“面倒”な作業は、最高裁判所の判決が出たおかげでほとんど発生しなかった」というのではなく、「債務者の利益を犠牲にして、最高裁判例を奇禍とし『裁判に持ち込まなければならない事態などの“面倒”な作業』を避ける『高収益、高収益率狙いの弁護士司法書士』が増えている」と言うべきであろう。
弁護士・司法書士の収益という点からみれば、記者が指摘するように、債務整理事件は(私の事務者ではおばさんでも出来る過払い請求と冷やかしを言って司法書士の安易な業者との談合に警告を発しているが)「時間と労力をかけずに過払い金という“成功報酬”が獲得できる、実にオイシイものだった」そこに「空前のバブル到来である。そこに食いついたのがアデイーレを初めとした振興の弁護士法人だった。他の代表選手はミライオ(当時はホームロイヤーズ)、ITJ法律事務所などだ」というのも事実であるが、それが総てではない。
正確に言えば、「空前のバブル到来」があったから「そこに食いついた」のではない。むしろ彼らが広大に潜在していた債務整理ビジネスに着眼し、解禁されたばかりの広告と価格競争の自由を武器に、その市場に進出したからこそ、一般弁護士司法書士にとっても「空前のバブル」が到来しその利益を甘受できるようになったと言うのが正解である。
「アデイーレを初めとした振興の弁護士法人」が登場する以前から自己破産債務整理ビジネスの市場は存在していた。それは弁護士完全独占、価格競争禁止の市場であった。その独占市場の利益を弁護士界二つのグループが分け合っていたのである。一つは共産党系団体民商と業務提携していた「クレサラ被害者の会」グループを指導する左翼弁護士グループで、その創設者の一人に自己破産マンガで著名となった前日弁連会長宇都宮健児弁護士がいる。
一方のグループがヤメ検、ヤメ判グループで、その中には債務整理事件や自己破産事件で事件屋と提携し懲戒請求された者もいる。検事、判事が弁護士を開業しても容易に事件は受任できなかったから、債務整理、自己破産は格好の生活の糧となっていたのである。
司法制度改革によって司法書士にも開かれた債務整理市場はまず何から始まったか。自己破産、債務整理手続きの価格破壊とそのITを活用した広告から始まったのである。これにより利益を得た第一人者は誰なのか。それは、弁護士独占時代には考えられない低価格の法律サービス(今では必ずしも安いとは言えないが)を享受出来るようになった消費者債務者だったのである。
損害を蒙ったのは、消費者金融会社ということになるが、この「空前のバブル」という債務整理、個人自己破産市場の拡大の中でいち早く消えてしまったのがヤメ検、ヤメ判グループであり、すっかり影の薄くなったのが共産党系団体民商と業務提携していた「クレサラ被害者の会」グループであった。どちらのグループも弁護士カルテルあってはじめて存在しえたという点では共通している。司法制度改革以前には、債務整理独占市場への司法書士進出を警戒して、司法書士の簡裁訴訟代理権に強行に反対していたのは、高利貸し撲滅の正義を看板とする団体の代表者、前日弁連会長宇都宮健児弁護士だった。
債務整理、個人自己破産市場の「空前のバブル」は、長年にわたる弁護士の業務独占が作り出したものであって(又その一部解除の反射でもあった)、司法制度改革以前に登録した弁護士たちには、この「空前のバブル」を笑う資格も、もちろん非難する資格も無いのである。