〈閑話休題 終末の夏を楽しむ 1〉
今年も7月8日から7月14日まで、モンゴルに行ってきた。モンゴルでは毎年7月11日から13日の三日間にわたって、7月11日の革命記念日にちなみ国家ナーダムと呼ばれる民族の祭典が行われる。今年は私もその祭典を観覧した。初日の11日にはウランバートルの中央スタジアムで開会式と民族舞踊がスタジアム一杯に繰り広げられる。そして、一年に一回のモンゴル相撲決勝戦第一日が展開された。
2日目の7月12日には子供競馬がウランバートル郊外の広大な草原で展開された。伝統のモンゴルの子供競馬は全世界に知られているイベントだが、実際には、馬に乗った子供同士が競争しているわけではない。遊牧農家で丹精こめて育てられた馬同士を競争させているものであるが、子供の体重が軽いので、いつしか騎手として子供が選ばれるようになったのである。
実は、この子供競馬がモンゴルの国会で問題になったことがあるという。落馬した子供の事故が多かったので、婦人議員が人権問題としてその危険を指摘したのである。今では色とりどりのヘルメットを全員着用だが、私がゴールで見る限り、今年も三頭の馬が騎手なしでゴールを走りすぎて行った。子供ジョッキーは落馬したのであろう。
私はゴール付近で観戦していたが、50キロも先がスタートラインなので、実際の競争の模様はテレビで見るしかない。しかし大草原を、百頭近いモンゴル馬に小学3年生から中学1~2年生くらいの子供が騎手となって鞭をあてながら懸命に疾走するのであるから、テレビ中継でも、その姿を見れば感動で目頭が熱くなる。驚きなのは、子供ジョッキーたちが鞍もない裸馬を時速4~50キロくらいのスピードで駆使していることである。
人口280万人、世界一人口密度の小さな国だ。遊牧民は100万人、一つの家族が、20頭ほどの馬と、100頭ほどの羊、ヤギ、そして牛を放牧して暮らしている。モンゴルに行けば2日はたっぷり乗馬をし、夜は旅行客用のゲル近くの原っぱに寝そべって天の川と満点の星を見るのが定番だ。今年も天候には恵まれた。平均標高1000メートルを超す高地の草原だから夜は結構冷え込むがそれがまた気持ちが良いのである。
乗馬ツアーのグループを率いて高原を案内するのは、遊牧農家の主人と中学生の二人。遊牧民の子供たちは普段は寮生活で親と離れて勉強しているのだが、7月は夏休みで、旅行者に乗馬の手ほどきをするのが彼らのアルバイトなのだ。
今年の乗馬ツアーでは、広い浅瀬の川を渡った。どこまでも透明にすんだ川は、天山山脈から流れて来てバイカル湖に向かう。川の向う岸には放牧された馬たちが群れをなして走っている。遠い丘の中腹には、白いゲルが三幕ほど見える。人影はなくその先には突き抜けるような青空が広がっている。
乗馬ツアーの最終日は、乗馬ガイドの遊牧民のゲルを訪問することになっている。勧められたが去年は馬乳酒は飲めなかった。が、今年はカップ一杯を思い切って飲んだが意外と甘味があってうまかった。日本から来た人生にくたびれたような旅人が、皆、一様に感動するのは、遊牧民家族の純朴さ、親切さ、人懐っこさである。放牧家畜以外に財産を持たずに家畜を追って移動生活をする。広大な草原と丘を自分の庭としつつ暮らしている人たちも、いつかは西洋の強欲文化の前に消えて行くのであろうか。
今、東京にいて、参院選を前に政治家たちのポスターを見る。正直言って胸が悪く吐き気をもよおした。