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 〈「過払金返還請求をためらう理由」〉

  3 誤解だらけの過払い金返還請求


 (1) 派手なTVCMのおかげで過払い金返還請求自体に対する誤解、無理解があふれている

 過払金とは、高金利が目立たないリボルビング払いのカードローン金銭消費貸借契約において、利用者が貸金業者に支払いすぎた利息制限法違反の金員を取り戻すことで、それは債務者の法律上の権利であり、その行使は正義なのであり、利息制限法違反により被った債務者の被害の回復という建前なのですが、過払い金請求権者である債務者には、一時は必要で借りたものでもあり、その時の借入で非常に助かったというような鮮烈な記憶があるし、貸した者に対する借り手の負い目が微妙にあります。

 加えて、その借入の事実を弱みと感じて、他人はもちろん家族にもその弱みを知られたくはないという強い気持ちがあります。そこで、債務者はこの法律上の当然の権利としての主張をすることにひるんでしまう、遠慮してしまうのです。カードローン利用者にはそのような返還請求実行についての大きな壁があるのです。


 (2) 日本人通俗道徳感情からくる過払い金いじめと嫉妬

 「過払金」という言葉が、どうも響きが良くなく、昨日まで金に困って高利を借りていた人に利得させるのはなんとも面白くないという一部大衆の感情や、(現在広がりつつある今だけ金だけ自分だけという感情からくる)嫉妬や攻撃的無理解もありました。

 実は、本音のところでは、弁護士や司法書士の中にすら過払金返還請求についての通俗道徳から来る偏見を持つ人が珍しくないし、債務者の立場にあったものが、昨日までの債権者に権利主張をするのに対して、日本人独特の通俗道徳感情から反感を持つ司法書士先生も少なくないのです。高利貸しから金を借りた人間は、それを恥じて静かにしていろというような感情を持つ人が少なくないのです。しかしその感情は、法と正義に反します

 このような過払金返還請求についての、日本人の江戸時代末期から染みついた通俗道徳からの反感偏見は、実はサラ金の利用者が、必然的に多重債務化することになる38%~22%という高金利リボ払いというマジックこの巧妙な仕掛けの被害者であったという前提となる事実を忘れているのです。

 過払金返還請求権の行使とは、利息制限法違反の契約によって被った債務者の被害の回復と何百カ月もの理由なき拘束からの解放を意味するものです。専門資格者を儲けさせるためのものでもありません。借金を悪とする一般市民の通俗道徳感情は、貸金業法、利息制限法改正の背景にあった、消費者信用市場の混乱と社会にもたらす超高金利被害の実際を見ないで、被害者を攻撃するものであり好ましいものではありません。


 (3)ブラックになるという心配は正しかった

 多重債務者が過払い金返還請求権の行使をためらう最大の問題は、ブラックにならないかという心配です。ネットなどで資格者のサイトを見れば、過払い金請求は権利の行使であるからブラックとはならないと書いているものが多いようですが、これは間違いです。

 過払い金があろうがなかろうが、弁護士や司法書士の債務整理の委任状が業者に届けば、その時点で催告も貸付けも停止されその債務整理開始の通知は直ちに改正貸金業法で新設された「指定信用情報機関」に通知され、その事実は登録金融業者に公開されます

 この業者間情報の共有で、金融庁がどのような効果を狙っているかと言えば、大量の200万人と言われた多重債務者問題を解決するために過剰貸し付けを抑制するところにありました。ブラックとは業者間での金融取引リストに載るということの俗称ですが、この債務者の支払い能力登録規制は、貸金業法が改正されて以後、かえって強化されました。信用情報機関を業者任せにすると、ブラック情報を見て困窮した債務者の逼迫した資金需要に目をつけ、追い貸しをする悪徳業者が絶えなかったからです。

 このために貸金業法改正では「指定信用情報機関」という仕組みが作られましたが、この指定をだれがするかと言えば「内閣総理大臣」です。俗にいうブラックという債務者の支払い能力、支払い状況などの個別債務者情報は改正貸金業法以前に比べ内容も時間的経過も詳細に「指定信用情報機関」に報告されていますから、改正後は、改正前より業者に対する事故情報の報告公開義務はもっと厳しくなったという事です。

 従って、債務整理(過払金返還請求含む)の委任状が、弁護士、司法書士から業者に届けば、業者は直ちにそれを事故扱いとし、「指定信用情報機関」に報告し、公開します(過剰貸し付け防止)。つまりブラックに必ずなるということです。債務者の危惧はまさに正しかったという事でしょう。

 これでは相当の覚悟、ショッピングカードもETCもインターネットも自動車ローンも住宅ローンも出来なくなるというリスクを覚悟せざるを得ません。弁護士や司法書士に債務整理を委任するには相当の覚悟が必要だという事になるのです。

 以上のような事情があり、全国では今でも多数の債務者たちがブラックとなることを恐れて、払わなくても良い金銭を毎月払い続けています。この実態はマスコミにも分かっていないし現在の潜在的不当利得返還請求権者数、規模については裁判所にも分かりません。しかし金融庁には「指定情報機関」の情報や登録各社の決算書からわかっていると私は思います。



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