ハラリ氏の「ホモサピエンス全史」は、歴史書というよりも、歴史人類学と言った方が良い本で、最近、人類学視点から歴史を再評価する歴史書が増えている。そのことに気付かれた方も多いのではないか。その特徴は500年ばかりの、ついこの間までは日本人にとってバイブルだった白人欧米文化、ヨーロッパ文化の相対化と、欧米文化の人道主義に隠れた徹底した残虐ぶりと合理的で情け容赦ない暴力とその技術だ。
その点日本人は見てくれに騙されやすいが、最近の中国の宇宙開発、軍拡をみれば、中国人はそうではない。中国人の所得は、今、平均月収6万円位だと言われるが、それが15万円になるのは、それほど遠くはないだろう。1970年、私が読売映画社に入ったころの初任給月収は2万6千円で、日本テレビが4万円だった。これから、中国には大資産家も増えるが、中間所得者も驚異的な増殖を示し、インターネット大消費社会がやって来る。そして結局一党独裁に代わる、消費者国民の声に支えられた政治の時代を迎えることになるだろうが、そこに移行するには、中国史によく登場する大動乱の到来が不可避だろう。
最近の中年日本人の想像力はスマホのおかげで衰弱の一方だからただただその大動乱をポカッと眺めているということになるだろう。文化人類学的視点からは、アメリカ史、南米アメリカ史も見直され、白人中心の500年がここでも厳しく見直されている。人間の歴史を人類学的視点、進化論的視点から見直すということは、近代、現代史を、生命誕生30億年から見直すということだ。「人はどこまで進化するのか」(亜紀書房)でノーベル賞生物学者エドワードウイルソン氏は、人文系科学(法律哲学文学)を再見直しする必要があると述べている。
文系インテリが8割の日本文化、メデイア文化の視点からは「ハーッ?」ということになるだろうが、著者によれば、調査分析技術の進歩もあって宇宙地球のことは大体わかって来たし、特にこの20年間、生物学、医療技術は急激に発展し、インターネットのおかげで新しい知見や発見はあっという間に世界に広がるから、その知識のストック量自体巨大なものとなっている。
30億年前の地球の原子のスープの中で、エネルギーと原子が相互作用することにより最初のアミノ酸が出来、そのアミノ酸のヒモが、自己複製し始める。どうやらこれが生命の起源らしいが、そこから30億年後の現在にたって、これまでの人類を見渡してみたのがハラリ氏で、数学理科が苦手だった、早稲田、中央大学等の政府行政法務そしてメデイアを握るガチガチの完全文系おやじには、ハラリ氏の「ホモサピエンス全史」の一読を是非お勧めしたい。特に法律関係者の必読文献ではないか。