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 〈「我が家の弁護士」と言われる存在に〉

 「掛かり付け医」とは、いつも診察・治療してもらっている医者をいうが、「家庭医」という言葉には、「掛かり付け医」よりも更に親しく、身近な感じがして、もっと気軽に相談できそうな存在に思えてくる。親戚のような気になる。

 人生の一大事を相談してくれるクライアントとは、その接し方によっては、血縁や、婚姻によって繋がった人々である姻戚と同じような親戚付き合いをするようにしているが、「家庭医」という言葉には、そういう響きもあり、見習いたい。地方弁護士も「我が家の弁護士」などと言ってもらえる存在となりたい。

 こういうところが、自分は単細胞と思えるところだ。単純な考え方の人間で深く考えず、すぐ結論を出す思慮浅薄な人間だ。家庭医の何も知らないで、地方弁護士は家庭医的存在になるべきではないかなど言うことには、さすがに躊躇するところもある。

 しかし、地方弁護士は家庭医的存在になることが、現在の地方弁護士が置かれている厳しい商売面を考えれば、大事だと思えてならない。つまり、地方弁護士は前記パンフレットのキャッチフレーズのように地域に根差し、気軽に相談できる存在とならなければならない。「我が家の弁護士」と呼ばれるようになりたい。

 大都市の大病院の進んだ設備と、多くの専門医の下で診察治療を受けなければならない病気もあるが、ちょっと熱が出たとか、腹を壊したとか、指を切ったなどという程度では、わざわざ大都市の大病院まで出向く必要はない。近くにある開業医で足りる。日常、つまり普段に発生する健康問題では、地方医に相談すれば足りる。

 ちょっとした発熱や下痢などで、大都市の病院に駆け込まなければならないなどということはない。まず近医で診察、治療を受ければ済む。さらに検査が必要となったら大きい病院で診てもらえばよい。地方医は家庭医となって、患者を一人でも多く獲得することが、商売繁盛の基本である。気軽に、確実に患者に来てもらわなければならない。

 健康の問題は、どこの家庭でも普段から日常的に発生している。前記医院の「日常の健康相談まで幅広く、皆様が気軽に相談できるように心がけています」というキャッチフレーズは、地方住民には分かりやすく納得できる。普段から発生している小さな健康問題などは、早いうちに近医に気軽に相談できれば有り難い。「早期発見、早期治療」という大事なことに繋がる。地方医の役割を果たす上でも良いキャッチフレーズである。

 日常生活、つまり普段の生活の中には、病気だけでなく、いろいろな心配や不安が絶えず発生する。「育児の心配、介護の不安」も、その一つであろう。それらは、病気と関係が深いので、医師としては具体例として、その言葉を出したのであろう。しかし、日常生活の中で発生する心配や不安は、病気に関わることだけではない。カネの問題、仕事上の問題、人間関係の問題など心配と不安は限りなく、休むことなく発生している。法律問題も、その一つに過ぎない。


 〈病気以外の日常の心配全般がターゲット〉

 地方住民の生活の中で、日常発生する心配や不安のうち、健康問題は地方医、法律問題は地方弁護士が、地方住民の相談を受けるに適任者であることには、異論はなかろう。これまでも地方医も地方弁護士も、それぞれの仕事を果たしてきた。

 しかし、日常生活の中で発生する不安や心配は、健康問題と法律問題に限らない。弁護士がこれまで主に扱ってきた問題は、法律問題の中でも、主に裁判問題だった。一生に一度体験するかどうかという非日常事件だ。

 地方弁護士は、日常に発生する法律問題の相談を受けなければならない。それは法律の専門家である弁護士として当然であり、日常発生する問題の中でも、法律に関する問題を地方弁護士が相談に乗ることは、これまでも担当してきた。

 地方弁護士は法律問題以外の金銭問題、仕事上の問題、人間関係上の問題など、日常生活の中で発生する心配や不安などの全般について、地域住民の相談に応じなければならない。そこを地方弁護士の新たな業務拡大のターゲットとして開発しなければならない。「病気に関する悩みはまず家庭医へ、その他の悩みは全て我が家の弁護士へ」としたい。

 日常的に発生する心配や不安のうち、病気に関する部分は地方医にその役割を果たしてもらうことにしても、その他については全て弁護士がその役割を担当すべきである。

 前記医師は、「日常の健康相談まで幅広く、皆様が気軽に相談できるように心がけています」と言っているが、地方弁護士は、このように心掛けているのだろうか。他の弁護士はともかく、かく言う私はその心掛けができていない。前記医師のキャッチフレーズに教えられた。「悩み事や心配事を、幅広く皆様が気軽に相談できるように心がけています」というキャッチフレーズを掲げたい。 

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)

 

 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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