司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 

 〈これまでの仕事ぶりでは生き残れない〉

 行政を担当する者は、国家から給料を支給される。司法を担当する裁判官、検察官も、国家から給料を支給される。法曹のうち、その数の大半を占めている弁護士は、国家から給料は貰えない。自分でカネを稼がなければならない。

 「弁護士は、憲法の番犬」と考えるのなら、それに見合う経済的裏付けは、法律で保障すべきであるという考え方も湧いてくる。弁護士法第1条は、「弁護士は基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と規定しながら、弁護士に対する経済的保障には何も手当てをしていない。

 しかし、これまでのところでは司法修習生に対する給料まで打ち切られたこともある状況を見ていると、弁護士に国が経済的保障をすることなど見込めない。個々の弁護士自身が稼がなければならない。それだけに、弁護士の数を増やしたことはよいことかどうかの議論が出るのも分からなくもない。個々の弁護士の収入は減るという状況に陥った今の時代は、それをどのようにして乗り切るかという問題に直面している。

 この問題を組織の問題として、個々の地方弁護士が他人事のように考えていたら、自分が一番困ることになるということに気付かなければならない。他人任せにしないで、個々の弁護士が自分自身の問題として考えていかなければならない。地方弁護士の組織の一員として、弁護士の商売が繁盛するように努めなければならんいが、自分自身の商売が繁盛するためには、個々の弁護士一人一人が、どうしたらよいかを考えなければならない。

 弁護士の集まりである日弁連、地方ブロック弁連、単位弁護士会という組織を挙げてやらなければならない問題は山積みしているが、個々の弁護士もそれぞれがどのようにしたら、弁護士が国民や地方住民から求められる存在となるかを考えなければならない状況に置かれている。

 地方弁護士も、これから地方で弁護士事務所を開所しようと考えている人も、この認識を持たなければならない。その認識を持って、どのようにしたら地方弁護士の経済的基盤を万全なものにするかを考えなければならない。地方弁護士は、それを真剣に考えなければならない状況に今追い込まれている。

 地方で開業する個々の弁護士は、自ら取り扱う仕事の間口を広げ、地方住民にとっては非日常ともいえる裁判事件だけではなく、地方住民の日常的に発生している問題に広く関与して、仕事の種類を広げなければならない。地方弁護士は、法律の条文や判例や法律論に関する知識を切り売りするレベルの仕事に止まらず、人間はどう生きるべきかなどという知恵や哲学レベルの分野においても、地方住民の相談相手になれるように、その知識を深め、その仕事をより深めなければならない。

 地方で開業する弁護士は、自らの人間総合力を向上させ、広い分野で地方住民の悩みを解決する仕事をし、法律に関しない日常的に発生する地方住民の生き方に対する悩み事にも相談に乗れるようにより深い常識と知恵と人情と気持ちを持たなければならない。

 地方弁護士は、新型コロナ問題などで世の中が変革の中にあり、社会や政治の仕組みが変わり、新しくなろうとしている今、世の中の変化に順応するためには、これまでのような仕事振りだけでは生き残れないという自覚が不可欠だ。より広く、より深く仕事の幅と奥行きを求めなければならない。


 〈盲導犬的な役割〉

 地方弁護士は闘犬の土俵から離れて、商売をする場を広く求めなければならない。裁判という土俵というか、リングというか、コートだけに止まっていないで、仕事の場を開拓しなければならない。

 その一つの例として、「喧嘩犬から氏神様へ」とすか、「専門馬鹿から知恵者に」とか、「家庭医的存在へ」などと述べた。しかし、他にも、もっともっと変えなければならないことがあるような気がする。

 地方弁護士喧嘩犬から脱皮しなければならない、などと書いていたら、地方弁護士は盲導犬的役割を果たすべきではないか、という思いが湧いてきた。その思いをみのる法律事務所で毎月発行している事務所便り「的外」令和4年2月号(第382号)に「闘犬や 番犬なども いるけれど なれるものなら 盲導犬に」という駄弁句を詠んだ。

 文字通りの駄弁句で、他人様に読んでもらえるような代物ではない。だが、その思いは、地方弁護士の在り方に関するものであり、この論稿のテーマに関わっているので紹介する。

 その駄弁句の解説は、以下の通りである。

 「80歳記念本の一冊として、『地方弁護士の役割と在り方』という駄弁本を書いています。弁護士は民事裁判の代理人として、検察官と闘ったりしています。弁護士の役割には、喧嘩犬などと揶揄されることもある闘犬という一面があることは間違いありません。これまでの弁護士生活は、喧嘩犬と言われても仕方がない内容でした。

 弁護士は、国家機関や地方機関が憲法や法律などに違反したり、違反しそうになったら、憲法や法律を守る番犬として吠えなければなりません。弁護士の役割には、家や財産を外敵から守る番犬という一面があります。地方弁護士生活52年となりますが、番犬の役割は曲がりながらも果たしてきました。

 地方弁護士には、喧嘩犬と番犬という役割の他に、迷える地方住民を導く盲導犬という役割がありそうですが、これまでは、その役割を果たしてきませんでした。これからは盲導犬になりたいと思います。

 三省堂の新明解国語辞典は、『盲導犬』とは、『盲人の道案内や生活介助をするように特別の訓練を受けた犬』と解説しています。地方弁護士の役割として、そのような役割を果たしたいのです」。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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