〈必要とされるということ〉
どの商売でも同じで、その商売が繁盛するかどうかは、根本的にはその商売が世の中からどれほど必要とされているかによる。その商売が、世の中が求めているものであれば、その商売が繁盛することは当然である。その商売を世の中がどれほど必要としているかは、その商売が繁盛するかどうかが決まる、おおもとである。
地方弁護士業は商売として世の中からどれほど必要とされている存在であろうか。それを語る前に、そもそも弁護士業とは、どのような商売なのかを今更ではあるが、この機会に考えてみたい。そこから地方弁護士の商売の在り方が見えてきそうな気がする。
地方弁護士となって先輩弁護士の商売を見習って、法廷闘争の準備や、法廷闘争に追われる毎日で、改めて地方弁護士の商売の本質やその在り方について考えることはなかった。地方弁護士の商売をどうしたら繁盛させられるかを考えるこの機会に、そもそも地方弁護士の商売とは、どういうものなのかを考えてみたい。
その上で地方弁護士は、地方住民にとってこれまで以上に必要不可欠な存在になるためには、どうしたらよいかということを考えてみたい。
これまでの地方弁護士の商売のやり方を反省し、これからの地方弁護士の商売をより繁盛させるためには、どのように変わらなければならないかについて、これまでの経験から浮かんだ思い付きを述べてみる。
地方弁護士業はサービスを提供する仕事であるが、そのサービスの内容をより良質なものに向上させなければならない。場合によっては、次元の違う異なる視点でサービスの内容を見直さなければならない。
これまでの弁護士は、難しい資格試験に合格して、弁護士資格を取ったという自意識が強く、俗な表現をすれば、お高くとまっていたように思える。他の仕事とは違うと上品ぶって気取っていたように思える。古い弁護士には、おっとりと構え儲けに拘らず、商売という意識が薄かったと言われても仕方がない面があった。
地方弁護士業を、50年を超えて経験して得た印象からは、地方弁護士は地方住民にサービスを提供する商売であるという意識を、もっと強く持たなければならないのではないかという反省が強い。他の業種の商売人より商売気が足りないような気がする。
その反省の上に立って、地方弁護士の商売は他のサービス業と同じで、競争原理が働く商売の世界にあり、個々の地方弁護士も「旨い、早い、安い」サービスの提供が不可欠であるという認識と、地方弁護士という存在が、地方住民に必要不可欠な存在とならなければならないという認識を持たなければならないということを中心に述べる。
〈「お客様は神様です」という意識〉
余談というか、蛇足というか、本論ではなく、話の筋から外れてしまうが、地方弁護士の商売面に直結する、心に残って忘れられない話も述べたい。
「お客様は神様です」と語ったのは、1964年の東京オリンピック当時「東京五輪音頭」を歌った国民的歌手と言われた三波春夫氏だった。地方で開業する弁護士にとっても、お客様は神様だ。弁護士は法的知識や知恵を提供するサービス業だ。サービスを提供するということでは、芸を提供する歌手や芸能人と同じだ。バーやキャバレーで客を接待するホステスと同じだ。地方弁護士には、まずこの認識が必要である。ここの認識が足りないような地方弁護士は少なくない。
サービス業界の頂点に立っていると思える国民的歌手の「お客様は神様です」と言う言葉は、地方で開業する弁護士の耳には、どのように響いているのだろうか。地方弁護士はサービスを提供しているという意識はあるだろうか。「お客様は神様です」という意識はあるだろうか。
サービスとは、客をもてなすことだが、地方弁護士は、その意識をどのくらい持っているだろうか。法律の専門家だなどと資格を鼻にかけ、サービスを提供してカネをもらう商売だという意識が足りないように、若い頃の自分を省みると大いに疑問を感じる。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第6巻(本体1000円+税)も発売中!
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