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 〈世界の魁となった9条の真の願い〉

 朝日新聞の令和2(2020)年4月11日の「天声人語」欄には、ここまで私が述べてきたことに近いことが書かれていました。その中に「コロナに対処するため一時的な世界政府を樹立するほかない」との提言があることが紹介されています。この提言には、我が意を得たりで、これこそ天の声だと思いました。

 9条の「戦争の放棄」と「戦力の不保持」を世界中に取り入れる大きな第一歩となる極めて重要な提言です。新型コロナウイルス対策のために世界政府の樹立が実現すれば、それが一時的であっても人類史上画期的なこととなります。世界政府が、たとえ新型コロナウイルス対策の一時的なものでも出来れば、こんな素晴らしいことはありません。世界連邦への大きな第一歩であり、このような提言を心から歓迎します。

 国際連合は、昭和20(1945)年に成立しました。第二次世界大戦の反省の下に、世界の平和を守り、各国の友好を深めるための国際的な組織です。しかし、第二次世界大戦に勝利した大国が持つ拒否権の行使乱発などで足並みがそろわず、世界は一つというところにはほど遠い。

 そして、今また大国アメリカと中国は、新型コロナ問題をめぐっても対立の様相を呈しています。これではダメです。これでは新型コロナウイルスという異人類に、人類は勝てません。

 アメリカと中国には、猛省を促したいと思います。安倍前首相は、トランプ前大統領の友達の如く振る舞っていましたが、こういう時こそ友人なら忠告すべきでした。同大統領に「今は中国とも一緒になって新型コロナウイルス撲滅のため一致協力しなければならない時だ。喧嘩などしている時ではない」と言わなければならなかった。それが本当の友です。

 だが、それは安倍前首相には期待できませんでした。せいぜい彼にできるのは、トランプ前大統領とゴルフをし、酒を酌み交わすくらいのことです。そして、彼からステルス戦闘機などを買わされるだけです。

 日本国憲法は、その前文に「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を維持しようと決意した」と宣言し、本文で「戦争の放棄」と「戦力の不保持」を9条に謳いました。

 9条の「戦争の放棄」と「戦力の不保持」は、諸国がこれに続くことを期待して世界の魁となったのです。その真の願いは、国境をなくし、国をなくし、戦争のない世界連邦の樹立です。

 戦争に立ってその認識を世界中に広めなければならない立場の日本国の首相が、9条改定などと主張するのは、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定めている憲法99条の憲法尊重擁護の義務に反しています。

 安倍前首相が、軽々しく9条の改定などと主張するのは、その主張の仕方によっては、在任中首相として、憲法99条の国務大臣の憲法尊重擁護義務違反に当たる可能性がないとは言い切れませんでした。


 〈天の声を語る〉

 戦後75年が経った令和2(2020)年現在、世界中でいまだ「戦争の放棄」と「戦力の不保持」をうたった憲法は、日本以外どこにもありません。これは、各国の指導者が、そして国民が「少欲知足」「利他欲」を忘れ、自国の利益と自分の豊かで便利な生活を第一に考えているからです。

 だが、今、新型コロナウイルスという異人類の襲撃によって、人間は人種やどこの国民かなどに関係なく、また、老若男女なども関係なく、今、この世に生きている人類は一致団結して、異人類と闘わなければならない状況に陥っています。

 ここにきて諸国民は、公正と信義のもとに一致団結して、闘わなければならないことを改めて知らされました。国と国とが、人類と人類とが、戦力を使って殺し合う戦争などしている場合ではく、戦力にカネを浪費してはいられないことを誰もがしらなければならないのです。

 新型コロナウイルスという異人類の襲撃によって、世界は9条が真に目指している世界連邦の樹立に向かってスタートするチャンスを得ました。世界のあり方を見直すいい機会を世界中の人々に提供したのです。人間が、人種や国籍や老若男女などのあらゆる区別の垣根のすべてを取り払って、一致団結し新型コロナウイルスに立ち向かわなければならない状況をつくったのです。

 朝日新聞の天声人語欄は、「今の難局を乗り切るには、WHOとは違って、強制力を持つ臨時の政府が欠かせない」と、元英首相の提言を紹介したうえで、「何とも壮大な提案だが、米中の不仲などを見れば実現はむずかしかろう」と語っています。

 この見解が、現実的であることは十分に理解できます。だが、天下の朝日新聞の、私事ですがこれまで文章を書くうえでの参考にさせてもらった、天声人語欄とも思えない弱気な発言で、いささかがっかりしました。現実は無視できませんが、理念の実現を目指さなければなりません。その目標に向かって、全力を尽くすのが。私たちの役割です。

 天声人語はもっと強く「この提言に世界中が従わなければならない」と語ってほしい。理念を強調し、あるべき理想の姿に近付くように導いてほしい。

 天声人語欄は、天の声を語るものです。「米中は不仲を直ちに止め、米中のみならず、世界中の国は9条を取り入れなければならない」と、声を大にしなければなりません。天声人語欄には、それを期待する身としては、いささか残念です。

 天の声は現実に、流されることなく、理想を追い求めなければなりません。それだからこそ、天の声です。天声人語欄には、9条が真に目指している世界連邦の樹立のため第一歩として、新型コロナウイルス対策のための強制力を持つ世界政府樹立を全力で後押ししてほしいのです。

 新型コロナウイルスは、いったん終息したとしても、新・新型が襲撃してこないとは断言できません。それに備えるためにも、世界中が戦争を放棄しなければなりません。世界中が日本国憲法9条の哲学を取り入れなければならず、いまこそがその時、少なくともその方向に向かういいチャンスです。そのために、おこがましいかぎりですが、「コロナウイルスと9条」と題して、天の声を語ったつもりです。=この項終わり

 (拙著「新・憲法の心 第27巻 戦争の放棄〈その25〉」から一部抜粋)


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