〈法律と気持ちの優先順位〉
楽しく生きるためのアイテムである相続を、骨肉相食む毒とはしたくはありません。そうさせないためには、どうしたらよいかを考えてみます。まず、その原因を究明してみます。原因を究明し、その原因を取り除くことが大事だからです。
50年を超える田舎での弁護士経験と、10回を超える手術と人工透析治療などで1級身体障害者となり、死を現実のものと感じながら八十路も近くなり、多くの経験を経て、やっとその原因はこれだ、と確信したことがあります。
それは、法律と気持ちの優先順位を勘違いしている人がいるということです。特に裁判官や弁護士などの法律の専門家の中には、そういう人が少なくない気がするのです。それが、一般の人にも伝染しているように思えるのです。それが相続問題で骨肉相食む争いを生む原因の一つとなっている気がするのです。
相続問題では、法律より気持ちが大事です。国が国の都合で創った法律に振り回され、残してくれた人の気持ちや、受け取る人同士の気持ちを軽視したり、無視するという間違いが大きな原因となっていることに気付きました。
人生をまわりの人と一緒に楽しむためには、国が国の都合で創った法律より以前に、人それぞれが持つ気持ちを大事にしなければならないのです。法律は、人と人との関係を楽しくすることまでは考えていません。人と人との楽しい関係は、関係者皆の気持ちによって成り立つのです。
相続を巡って親族間で争いが起きる原因の一つに、法律を優先させなければならないと勘違いし、気持ちを軽視するためだという面があります。そのことを述べたくて、こんな駄文を書いています。
相続問題で、骨肉相食む紛争となり、裁判で決着が付いても、親族関係は断絶し、互いに険悪な関係となるのは、人間の気持ちによって解決しようとしないで、法律や裁判で相続問題を解決しようとするからです。
自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを聞き、互いの気持ちを歩み寄らせるという努力をしないで、法律の規定に従えばよいと考えたり、法律の規定通りにするのが正しいなどとの誤解によるものです。
〈気持ちは二の次になる裁判所の判断〉
「裁判所の判断に従うのが正しい」などと考えるのは、とんでもない誤解です。相続問題を裁判で解決したら、遺恨が残り、親族関係は断絶することになることが多いのです。
裁判所は、法律理論に従って、判決を出します。関係者の気持ちの問題は、二の次となります。判決が出たら誰もが納得するなどということはありません。関係は悪化するだけです。
法律を持ち出し、裁判などという法律の条文と判例などのマニュアル(手引き)だけを重視する国家機関である裁判所に裁いてもらっては、この世で最も身近で最も大切な人との関係や気持ちなど一顧だにしない結果が出ることがあるのです。
最も身近で最も大切な人との関係を、自分たちの気持ちを無視した国家機関に法律という最低限度のモラルを規定したマニュアルに従い裁いてもらう必要など本来はないはずです。そうしてはならないのです。
近代国家においては、私人と私人の問題は自分たちの気持ちで決めることができる制度となっていますので、法律や裁判などに任せないで自分の気持ちで決めることをお勧めします。
この世の中で、法律で解決することなどは、ほんのわずかです。ほとんどのことは、関係する人たちの気持ちで決めています。私人間の問題は、関係する人の気持ちで決めるべきです。法律もそういう考え方で、「私的自治の原則」とか「契約自由の原則」と言っているのです。
大切な人が残してくれた遺産の処分は、残す人と残された人の気持ちだけで決めれば済むはずです。法律も法律に従えとは言っていません。法律の知識を得て、自分には法律によれば取り分があるということを調べたうえで、「私は欲がないので、法律通りでよい」という人がいますが、これが自分にとって、取り分が多くなることを計算したうえで言っているのですから、こういう人が一番欲深く、相続のトラブルメーカー(争いの原因を作る人)となりやすいのです。
(拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)
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