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 〈人生の角、段差、障害物を教える仕事〉

 (事務所便り第382号からの引用の続き) 

 「盲導犬には、三つの基本的な仕事があるそうです。一つは角を教える、二つは段差を教える、三つは障害物を教えるのだそうです。この三つの基本的な仕事を組み合わせて、盲導犬の仕事は成り立っているそうです。

 地方弁護士も悩めるクライアントに対し、何を教えなければならないか、その基本的な仕事は何かを見極めなければなりません。そのうえで、それをしてきたかと自らの地方弁護士生活を振り返ってみますと、何もしてこなかったことに気付きます。

 法律の条文と判例と法理論に関する浅く薄い知識を切り売りし、クライアントからカネを貰い、紛争の相手方と裁判所というリング上というか土俵上で、代理戦争に明け暮れてきました。まるで闘犬です。

 裁判に勝った時は、クライアントは一時喜びます。負けた相手は、一生悔しさが残ります。クライアントやその代理人を生涯恨み続けます。ここが喧嘩犬的役割を果たしている地方弁護士のやり切れないところです。地方弁護士になったのは、間違っていたのではないかと思う理由です。

 一度限りの人生を、夫婦、親子、兄弟などという格別深い縁で結ばれた人間関係を紛争や裁判で関係断絶などに導く地方弁護士の仕事は、反省しなければならない面が少なからずあります。

 60歳から70歳までの10年間に10回を超える手術や人工透析などを繰り返し、妻から腎臓の移植を受け、健常者に近い状態にまで戻れた身としては、臨死体験らしい体験なども踏まえて、『人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ』という『いなべんの哲学』を確立するに至りました。

 その『いなべんの哲学』に従えば、地方弁護士の仕事を使役犬の仕事に準えて言えば、盲導犬のように、悩める国民、市民、住民に対し、人生の角、段差、障害物を教え、人生を楽しく送れるように導く仕事をしたいものです。それが出来そうな歳となりました。是非そのような仕事をしたいものです。人生の角、段差、障害物を教えて、カネを稼げる弁護士になりたいのです。

 盲導犬は、盲人に、角、段差、障害物を教えるようになるために厳しい訓練をクリアしなければならないそうです。盲導犬は、それをクリアしたのです。立派です。

 そのような訓練をしてきたかと自問自答すれば、「ノー」と言わざるを得ませんが、歳だけは重ねてきました。経験だけは積みました。その経験を拠り所に、盲導犬的役割を果たしてみたいという気持ちが湧き、そのような思いをストレートに『闘犬や 番犬などもいるけれど なれるものなら 盲導犬に』と詠みました。80歳となりますが、前を向いて歩き続けます」。


 〈老地方弁護士の願い〉

 以上紹介した文章は、地方弁護士の役割と在り方に関する自分の今の気持ちに一番近い気がする。闘犬などと言われてきた弁護士は、盲導犬的な存在に脱皮しなければならないという思いで素直に述べた。青臭い文章であるが、本心である。

 地方弁護士のこれまでやってきた商売を考えた場合に、それができるのかという疑問は湧くが、工夫すれば出来ると確信する。その一例として、調整役となって、それ相応の報酬を貰うということは、既にみのる法律事務所では、ある程度はできるようになっている。

 調整役からさらに脱皮し、盲導犬的役割を果たし、収入を得たいというのが今の思いだ。生き方に悩むクライアントに、これから生きて行く先にある角、段差、障害物を教え、人生にあまり大きく躓くことのないように指導し、それ相応の対価を貰える地方弁護士となりたい。

 法律問題に限らず、人生のすべてについて相談に応じられるような地方弁護士になり、盲導犬となって悩める地方住民の役に立ちたい。それが、老地方弁護士の願いだ。

 地方弁護士これまでのように、裁判所で一方当事者の代理人として闘う闘犬のような仕事を主としていたら、弁護士の増員や裁判事件の減少などにより、個々の受任事件数は減少し、地方弁護士の商売面は厳しくなることが予測される。地方弁護士は、裁判に関する事件に止まらす、地方住民の日常生活に関係して発生する問題全般に関与して商売をしなければ、地方弁護士の商売をより繁盛させることはできない。

 地方弁護士は、地方住民が幸せな人生を送るうえで必要な日常生活上の知恵を提供し、地方住民が幸せな人生を送れるように導いて、相応の対価を貰うという商売を成り立たせなければならない。

 地方弁護士は、地方住民の日常生活における盲導犬的存在にならなければならないと確信する。地方弁護士の商売が繁盛するためには、地方弁護士は必要悪から地方住民にとって必要不可欠な存在とならなければならない。そのためには、地方弁護士は、地方住民の人生を導く盲導犬とならなければならない。少なくとも自分は、そういう地方弁護士になりたい。=この項終わり

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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