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 〈必要となる説明、理解、納得というプロセス〉

 相談だけではカネが貰えないという問題は難しい問題であり、今のところこれが妙案と言えるようなアイデアはない。ただ、地方弁護士は家庭医のように、日常生活の中で発生する地方住民の心配や不安を解消する相談先となって、何かあったらあの弁護士の所へ駆け込むという存在にまずなりたい。

 そのように地方住民から信頼される立場になることが、商売という面を考える上では、弁護士の商売のために不可欠である。地方弁護士の商売が繁盛するためには、まず多くの相談者に来てもらわなければならない。その相談の中から裁判事件となり、これまでのようにしっかりと報酬がもらえる事件に発展する場合もあることは、数多く体験している。

 裁判事件とはならなくても、クライアントに大きな利益が上がる効果を得たら、そのことをよく説明して、クライアントの理解を得る努力をして報酬を請求し、相応の報酬を貰うようにしなければならない。クライアントだって、説明を尽くせば納得してくれるはずである。説明、理解、納得という丁寧なプロセスが必要だが、それを尽くせば分かってもらえる時が来る。

 しかし、これは口でいうほど簡単にはできない。目に見えた仕事をしないで、カネを請求することは難しい。クライアントの理解を得られるような説得力が求められ、ここは一番難しい。しかし、やり方次第でできるはずである。

 地方弁護士は地方住民の日常生活の中で発生する心配と不安を一緒に考え、解決してやり、それに対する相応の報酬を貰える存在とならなければならない。そのような存在になれば、地方弁護士の商売という面も良い方向に進むと確信する。

 裁判事件の件数は増えなくとも、地方住民の悩み事は日常に発生し、途切れることはない。裁判事件とならなくとも、地方住民の悩み事に対応できれば弁護士の仕事も増える。地方住民の悩み事を真に解決してやれば、裁判とならなくても、弁護士に報酬を払うという考えは湧くはずである。クライアントが納得する解決となれば、クライアントはそれ相応の支払いをするはずであり、まずクライアントが納得する成果を上げなければならない。

 商売は客が来なければ始まらない。地方で開業する弁護士の許に多くの相談者が来てくれることは、地方弁護士の商売という面を考えたら、まず必要不可欠なことである。そのために相談料は貰わないという方法も必ずしも悪いとは思えない。

 しかし、相談の内容や、その成果によっては、それ相応の手数料や報酬を貰うべきだし、貰えるようになる。そうなれば、地方弁護士の商売は、明るい見通しとなる。問題は相談だけでクライアントが真に納得する解決をしてやれるかにある。これには裁判手続きを代わってやるというレベル以上の力量が求められる。

 裁判で解決するのは、医療で言えば手術をするようなもので、家庭医的存在の地方医が、手術などしなくともいいように普段より健康問題を地方住民と相談し、病気を未然に防ぐように、地方弁護士も紛争や裁判にならないように、地方住民と一緒に考える存在になりたい。


 〈商売として成立させる工夫〉

 今のところは、相談自体ではすぐにカネは貰えないかもしれないが、相談が進み、その成果が上がったら、その段階でクライアントに説明し、納得してもらい、報酬を貰えばよい。つまり、節目毎に覚書や、確約書や合意書を締結してやるなどの方法で、カネを貰えるチャンスを生み出し、クライアントから相応の手数料や、報酬を貰えればよい。

 そこは工夫である。商売気を出して、機会をとらえて商売にすればよい。相談による効果の絶大さをクライアントに分かってもらい、その効果に見合う報酬を貰う努力をしなければならない。商売上手という言葉もある。クライアントを説得する力も、地方弁護士には必要となる。クライアントが納得してカネを払ってくれるように説明することは、商売として大事なことである。その説得力こそ、地方弁護士として最も求められる能力かもしれない。

 そもそも地方弁護士は、相手方や裁判官を理屈で打ち負かすことより、依頼者に納得してもらえるような説得力が必要となる商売である。地方弁護士の商売は、裁判官の顔を見るより、依頼者の顔を見なければならない商売である。特に、カネを貰うための説明は大変であるが、商売という面から見れば、これは地方弁護士の最も大事な仕事である。

 地方弁護士の商売という面では、まず多くのクライアントに事務所に来てもらうことからスタートする。地方弁護士は裁判事件に限らないで、地方住民の日常生活の中で普段に発生する心配や不安を解消するために、弁護士に気軽に相談できるような存在とならなければならない。

 分かりやすくいえば、前記医師の言う家庭医的存在とならなければならない。地方弁護士は、大都市の大病院の医師のような存在ではない。家庭医的存在であることを自覚しなければならない。そのうえで、相談に来たクライアントに本当に役に立つ知恵を出してやり、クライアントが満足する提案をしてやり、それによって効果が出たら、そのことを書面化するなどして確認し、それ相応の報酬を貰えばよい。

 地方住民だって、本当に役に立つ指導を受けられ、大きな効果があったと分かれば、それ相応の報酬を払うことを躊躇しない。まず、本当に役立ち知恵を提供することが先決だ。相談者が納得する知恵というサービスを提供しなければならない。そのために地方弁護士は、前記家庭医のように「気軽に相談できるように心掛けています。お出で下さるのをお待ちしています」という姿勢が肝心となる。  

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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