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 〈過去に犯した日本の過ち〉

 

 1868年に明治政府が誕生し、廃藩置県、中央集権、文明開化、富国強兵、地租改正等、さまざまな大改革が行われました。1639年から1853年まで、214年間にわたって江戸幕府が続けていた鎖国が解かれ、外国と関わることになりました。

 

 明治政府ができて30年もしないうちに、日本は戦争をするようになりました。日清戦争、日露戦争、日中戦争、太平洋戦争と、世界の大国を相手に戦争を繰り返したのです。私もそうですが、多くの国民は、このことを忘れかけていると思います。この機会に、そのアウトラインだけでも見てみます。

 

 日清戦争は、明治27年(1894年)から28年(1895年)まで、日本と清(中国)との間で朝鮮の支配権を巡って行われた戦争です。つまり、日本は朝鮮の支配権を得ようと平壌や大連などで清と争ったのです。

 

 戦争ですから、双方の兵が犠牲になったことは当然ですが、戦場になった地域の住民の命も財産も奪われました。多くの人の基本的人権も侵害されました。戦場となった地域の住民らに対し、どれほど迷惑をかけたかは、多くを語らずとも想像に難くありません。

 

 しかし、当時は日本政府も日本国民もそんなことは省みず、戦勝ムードに酔いしれたのです。

 

 日露戦争は、明治37年(1904年)から38年(1905年)まで、日本と帝政ロシアとの間で満州・朝鮮の覇権を争った戦争です。この戦争でも、両国兵士が多数死んだことはもちろんですが、戦場となった地域の住民がどれほど犠牲になったかは、ここでも多く語る必要はないと思います。

 

 この戦争後も、日本政府も日本国民もその実態はともかく、つまり、勝ったかどうかは別として、戦勝ムードに酔っただけで反省の欠片さえなかったのです。

 

 そんな日本政府や日本国民の姿勢が、その後の日中戦争、太平洋戦争へと、戦争をエスカレートさせていくことになりました。

 

 広辞苑は、日中戦争を「1937年7月7日、盧溝橋事件を契機とする日本の中国侵略戦争」と説明しています。この戦争は、さらに南方に進出しようとする日本と、それを阻止しようとする米国等との争いに進展し、昭和16年(1941年)に太平洋戦争へと発展しました。この戦争は、昭和20年(1945年)、日本がポツダム宣言を受諾し、無条件降伏して終結したことは、私たちの年代の者は身近なこととしてよく知っているところです。

 

 太平洋戦争は、第二次世界大戦のうち主として太平洋方面における日本と米国・英国・オランダなどの連合国軍との戦争ですが、日中戦争の長期化と日本の南方進出が連合国との摩擦を深め、昭和16年(1941年)12月8日、日本のハワイ真珠湾攻撃によって開戦となったのでした。真珠湾攻撃は、奇襲攻撃でした。日本が不意に攻撃したのです。

 

 ちなみに、私は昭和17年(1942年)5月20日生まれですから、太平洋戦争が始まって半年後に生まれました。昭和20年(1945年)8月15日の終戦日は、満3歳と約3ヵ月ということになります。

 

 日清戦争、日露戦争、日中戦争、太平洋戦争と日本が行った戦争は、島国の日本が朝鮮、中国、南方に進出しようとして起こしたものであることは間違いありません。自衛戦争ではなく、侵略戦争だったのです。

 

 日本国内では、太平洋戦争の末期まで戦争はなかったのです。すべて外に出て行って、戦争をしたのです。遡れば、豊臣秀吉(1537-1598)も同じようなことをした歴史があります。朝鮮に出兵し、中国、東南アジア進出を目指したのです。日本の戦争は、どの戦争も侵略戦争です。自衛戦争ではなかったのです。

 

 朝鮮、中国をはじめとする東アジアの国々から、「日本は歴史認識が不十分だ」と批判されていますが、日本国民の多くは過去に日本が犯した過ちを、うろ覚えでも理解しています。

 

 一部の政治家が、政治の心というか、「選挙に勝ちたい」などという駆け引きのため、歴史認識を歪めているのです。また、それら政治家の御用学者とも思える一部学者が、それに従っているのです。このような政治家や学者には、朝鮮、中国、東アジアの人々の心情を察する見識を持ってほしいのです。

 

 孔子は、「過ちて改めざる、是れを過ちと謂う」と言ったそうです。「過ちをしても改めない。これが本当の過ちだ」という意味ですが、安倍政権は今、約2500年前に孔子が教えたこの教えに、背く行動に及んでいます。間違った道に進んだら、すぐに引き返して正しい道に進むことが大事です。過ちをしたら、改めなければならないのです。

 

 日本国憲法の「戦争放棄」の規定は、日本が過去に犯した過ちに対する反省によって創られたものです。日本が朝鮮、中国、東南アジア、南方などで侵略戦争に及んだことに対する反省がなくては、日本は、アジアではもちろんですが、世界から、心の底から「平和愛好国」として迎え入れられないのです。

 

 

 〈これから果たすべき日本の役割〉

 

 これから日本が世界に対して果たす役割は、世界中の国々に「完全戦争放棄」を採り入れるように働きかけることだと確信しています。日本政府はもとより、日本人一人一人があらゆる機会を捉え、日本国憲法9条の「完全戦争放棄」の規定を世界中の人々に知らせ、一国でも多くの国が「完全戦争放棄」を採り入れるように説得することです。 そうすることが、過去に日本が犯した過ちを、本当に改めることになるのです。

 

 そのような努力を日本が国を挙げてなせば、いつか中国も朝鮮も東南アジアの国々も、連合国であつた米国・英国・オランダなどの国々も、日本国憲法の心を、日本人の心を理解してくれるはずです。

 

 「自衛戦争はできるから、国防軍を創る」などと言っている政治家を、世界が信用するはずはありません。「日本は、また好戦国に逆戻りする」「日本は、また侵略戦争をするようになる」という警戒心が膨れてくるだけです。

 

 政治や外交の世界は、私には分かりません。ですから、外交の分野については語る立場にはありません。ただ、自衛戦争まで含む「完全戦争放棄」の規定を、外交上最大限に活用するのが有効ではないかと考えることがあります。

 

 日本と手を組み、何かしようとする相手国に対しては、「日本は完全戦争放棄をしている国だ」という前提で交渉した方が、日本にとっても得になるような気がするのです。湾岸戦争の際に、海部元首相が9条の「戦争放棄」の規定の存在を理由に、ジョージ・ブッシュ米大統領と交渉し、多国籍軍への参加を拒絶したように、この規定を使うことができると思います。

 

 中国、北朝鮮、韓国、東南アジアなど、かつて日本から侵略を受けた国々も、日本は「完全戦争放棄」の国だということを本当に理解すれば、友好的な付き合いをしてくれると思います。日本に対する警戒心を解いてくれると思います。

 

 かつて日本から侵略を受けた国々の日本に対する警戒心は、容易にはなくならないと思います。やった方は忘れていても、やられた方は忘れないものです。金を借りた方が忘れても、貸した方は忘れないものです。かつて日本から侵略された国に警戒心を解いてもらうためには、日本は「完全戦争放棄」の国であり、「戦力を保持していない」ということを明確にすることが最も有効な方法だと確信します。

 

 今、安倍政権がやろうとしていることは、これとは真逆で、「自衛戦争ならできるから、国防軍を持とう」というものです。これでは、かつて日本に侵略された国が警戒心を強めるのは当然です。自衛戦争と侵略戦争は、区別できないのです。

 

 日本の役割は、戦力を増強し、米国と一体になって戦争をすることではありません。世界各国に対し、「戦争放棄」を働きかけることです。

 

 それが、米国と協調しながらも、日本は真の独立国であることを世界に示す方法です。日本国民も、日本には米国の駐留軍はいるけれども、米国とは考え方が違う独立国であることを自覚できる方法です。

 

 日本は、「戦争放棄」の規定のお陰で、戦後72年間、戦争に巻き込まれずに平和を享受できている現実に対する感謝と、過去の過ちの正しい認識と反省の上に、未来の戦争が核戦争となる脅威を、広島・長崎の被爆体験、福島原発事故の収拾の困難さなどを世界に知らせ、「戦争放棄」が不可欠であることを広めなければならないのです。

 

 地球上、他にはない、つらい経験をしてきた日本国及び日本人には、その責務があります。それができる適任者です。
 (拙著「新・憲法の心 第3巻 戦争の放棄(その3)」から一部抜粋)

 

 

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