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 〈知恵が求められる弁護士〉

 地方医師は、地方住民の病気やけがを治療・治療することを仕事とする。地方弁護士は、地方住民の紛争を解決することを仕事とする。どちらも専門的知識に基づき地方住民の悩みを解決してやる、というサービスを提供する仕事である。どちらも医師資格、弁護士資格という比較的難しい国家試験に合格しなければ、取得できない資格が必要な仕事である。資格のない人が医師や弁護士の仕事をしたら、処罰を受けることになる。国家によって、強く守られている仕事と言える。

 地方医師と地方弁護士の仕事には、多くの共通点が見られ、地方弁護士である身としては、地方医師の仕事から学ぶところは少なくない。地方弁護士はその商売面においても、社会的使命においても、地方医師と共通すると思える点から学ぶだけではなく、地方医師との違いから教えられることも多くある。地方弁護士は地方医師と比べて、このように在らねばならないという地方弁護士の在り方や、心の持ち方について教えられることも多い。

 医師の仕事は、主に自然科学的知識に基づき、クライアント(患者)を診察・治療することである。その拠り所は自然科学的知見で、そのエビデンス(根拠)は、実験等によって裏付けられる。地方医師には、自然科学的なエビデンスがある。

 これに対し、弁護士の仕事は、実験によって裏付けられる自然科学的エビデンスのような拠り所はない。「正・反・合」という弁証法によって、相反する言い分を論証し合い、より高い次元で統合する方法で紛争を解決することになる。地方弁護士は知識に止まらず、より知恵が要求されることになる。

 紛争は、当事者双方にそれぞれ自分が正しいと信じる言い分があり、互いにそれに囚われてしまい、歩み寄れないことで起きる。どちらも自分の言い分が正しく、相手の言い分は、それに反していると信じ込んでしまうことにより生まれる。それを統合、つまり一つにまとめるための方法の一つとして法律という秤を使い、裁判所が判決によって決着を付けるという方法がある。しかし、法律は自然科学的実験によって裏付けられるエビデンスではない。

 法律を適用するには、その前に事実を確定させなければならないが、事実に対する認識にも争いが出る。そのうえ、法律の解釈にも争いが出る。紛争は事実に対する認識の面においても、法律の解釈においても、正と反という問題が発生する。その争いは、自然科学的エビデンスによって白黒が付けられず、互いに自分の方が正しいと主張して譲らない点を、より高い視点でまとめるという弁証法的方法で解決しなければならない。

 それだけに物事の道理を弁え、正しく判断したり、適切に処理したりする能力、つまり知恵が必要となる。物事を知っているという知識だけでは、真の紛争解決はできない。弁護士には知識だけではなく、知恵が求められることになる。この点はあまり語られていないが、その認識は大事である。


 〈紛争の真の解決に必要なもの〉

 紛争解決という世界において、法律を秤にして、判決という方法で決着を付けても、真の紛争解決とはならないことが多い。法律に基づき一応の決着は付いても、本当の紛争の解決にはならない。つまり、双方の言い分を一つにまとめることはできない。

 法律よりもっと高い次元から、真の紛争解決の糸口、つまりきっかけを見付け出し、真の紛争解決をしてやる必要が出てくる。そのためには、法律という生き方を規律する上で、最低レベルの秤で計るだけでは足りない。もっと高いレベルの秤が必要となる。

 法律という秤を使う裁判では、一方が正しく、他方が正しくないと紛争に一応の決着は付けられても、二つ以上のことを一つにまとめ上げることはできない。これでは本当に紛争が解決するのではなく、かえって紛争が深刻化し固定化してしまう。法律と裁判では、紛争は本当の解決とはならない。

 紛争の真の解決は、法律という低次元の秤だけではなく、知恵に裏付けられた法律よりももっと高い次元の生き方というか、哲学という秤が必要となる。その秤で計り、紛争を一つにまとめることが、紛争の真の解決である。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵で統合を――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~27巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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