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 〈問題をひきずらないコツ〉

 遺産分割協議書の法的効力については、拙著「伝家の宝刀」の中で、次のように述べました。

 「こうしてでき上がった遺産分割協議書の効力も絶大だ。法律が規定している法定相続分も、寄与分も、特別受益分も、遺留分も関係なくなる。被相続人の残した遺言書も関係がなくなる。遺産相続問題は、この遺産分割協議書一本で決まる」

 「私は、この方式を『四十九日方式』(前回参照・編集部注)と命名し、広くこの方法を採ることを勧めたい。この方法を迅速に進めるためには、四十九日の法事の案内の際、法定相続人等には『遺産分割協議書を作るので実印と印鑑証明書を持参されたい』ということを申し添えることが大切だ」

 「法定相続人全員が実印と印鑑証明書を持参すれば、多くの場合、全員が署名・押印する方向に進む可能性は高い。遺産分割協議書によって、登記をしたり、預金の払戻しをしたりするためには、法定相続人全員の実印と印鑑証明書が必要だ。そのためにも、このような申し入れは大事だ」

 そのやり方を、さらに次のように示しました。

 「周りの皆がその気になっているのに、一人だけごねたりしにくい。実印と印鑑証明書を持参しているのだから、『印鑑がないから後で押す』とも言えない。これを持ってきていない場合は、後日ということになってしまう。後日になったら、ややこしくなることが多い」

 「『後で押す』というやり方は、後日に問題を残し、横槍が入ったりする元となる。いくら考えても欲にはきりがなく、遺産問題には『これが正解』などというものはない。納得したら即決断し、署名・押印をしてしまうことが、問題をひきずらないコツだ。遺産分割問題は、長引いたら必ず拗れる。四十九日までに署名・押印した方が皆のためにもなる。自分のためにもなる」

 ついでに釈迦に説法になりますが、次のようにも付言しました。

 「仏教では、人が亡くなった日から四十九日間は来世への準備期間と考えられ、四十九日は死んだ人が死の世界に入るのを残された人が送る日と考えられている。つまり、この世と完全に別れ、あの世に旅立つ人と生前特に親しくしていた人が最後の別れを交わす日ということのようだ」

 「安心してあの世に行けるように送らなければならない。亡くなった人の遺産を分けてもらった人達が、亡くなった人の霊前で残された遺産を親族一同で適切に受け継ぐことができましたと、報告と御礼を述べるに相応しい日といえそうだ」

 「遺産分割協議書ができたら、それを仏前に供え、法定相続人等関係者一同で『遺産を分けてもらいました。ありがとうございました』と焼香し、手を合わせて拝むなら、真に有意義に四十九日の法事となる」

 その上で、次の通り結びました。

 「四十九日方式は、それほど深く考えたものではない。ただ、44年間の田舎弁護士生活を通じ、『遺産相続問題で骨肉相食む争いを避ける方法としては、これがベストだ』と経験則が身に染み込んで、細胞となったものが生み出した方法である。われながらグッドアイデアだと確信する。四十九日位までには、残された人の気持ちをひとつにし、遺産分割協議書を作った方がよいという思いを、格好をつけ『四十九日方式』などと呼んだにすぎない」


 〈生前協議書方式が遺産分割協議として結実〉

 以上は、平成26年9月26日に発刊した「伝家の宝刀」で述べたことですが、今もその思いは変わっていません。少しだけ補足します。

 四十九日方式は生前協議書方式とは違い、遺産を残す人が亡くなった後にすることです。生前協議書は、遺産を残す人が生きているうちに、遺産を受け継ぐ人はこのようにしてほしいという自分の気持ちを伝え、遺産を残された人も承知したとして署名・押印したものですから、遺産を残す人と残された人の気持ちが合意しています。

 ですから、これに従って四十九日頃までには遺産を受け継ぐ人の間で、遺産分割協議書を作るのが最も良い方法だと確信しています。ここで生前協議書方式は、四十九日方式という遺産分割協議として結実することになります。

 遺言書や生前協議書がなければ、遺産を残した人のエンディングノート等に従い、それもなければ遺産を残した人の常日頃の言動からその気持ちを推測して、その気持ちに添うような遺産分割協議書を四十九日頃までに作った方がよいのです。

 法律や裁判所の世話になり、骨肉相食む争いとなり、「夫婦、親子、兄弟関係で断絶」などとならないようにするためには、相続に関係する人たちの心の持ち方、つまり気持ちが大事となります。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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