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 〈「老馬之智」で道案内したい思い〉

 「老婆心」という言葉がある。手許にある角川必携国語辞典、「不必要な注意を人に向かって口にしようとする気持ち」と言ったうえ、「老婆心ながら申し添えます」というように使うと説明している。さらに、「年を取った女性は、余計な気を遣ったり、世話を焼きたがることから」と説明している。

 孫娘からは嫌がられてはいるが、孫娘の可愛さとなんだかんだと世話を焼きたい性分で、ついつい余計な口出しをしては、孫娘には敬遠されている。生まれつき持っているお節介焼きの性格が出てしまう。

 駄弁本の発行も余計な気を遣ったり、世話を焼きたがっているだけかもしれない。世の中の人に対し、老婆のように余計な世話を焼きたいのだ。嫌がられても、世話を焼きたい性分なのだ。これまで地方弁護士の社会的使命と思い込んで、地方住民に発信してきた駄弁本も、ここで地方弁護士の社会的使命と述べてきたことも、不必要な注意を人に向かって口にしようとする老婆心レベルの内容に過ぎない気もする。

 国語辞典には、「老婆心」の隣には「老馬之智」という言葉がある。角川必携国語辞典は、「経験から得た知恵が役に立つこと。また経験の豊かな人の判断には誤りがないこと」と解説している。さらに、「山道に迷ったとき、年老いた馬の案内で無事だった故事(中国)『韓非子(かんびし)』」と書いている。経験から得た知恵が役立つことは、昔から知られている。80歳となった人間も、もう既に老馬と言えるほど経験を踏んでいる。

 「老馬」となったら、老馬の智を持ちたい。老馬の智を持ち、老馬の智で世間を、地方住民を案内したい。そのような思いもある。老婆心だけで、余計なことを言うだけではなく、老馬の智を地方住民に知らせたい。50年を超えて、地方弁護士をやらせてもらっている身としては、経験から得た知恵を世のため、人のために役立てたい。そんな思いで、こんな駄文を書いている。

 「老婆」も「老馬」も、読み方は同じ「ろうば」だ。80歳の誕生日を迎え、年齢的には、「ろうば」と言うに不足はない。不必要な注意かもしれないが、気付いたことは口にしたくなる。迷っている人の道案内をしてやりたくなる。ここまで生かされ、ここまで地方弁護士をやらせてもらっている身としては、世間に対し余計な気を遣い、世話を焼きたがる「老婆」にしかなれないかもしれないが、経験から得た知恵により、どう生きたらよいかと迷っている人の道案内をする「老馬」になりたい。


 〈わくわくする生き方〉

 そんな思いで、これまで自分では「老馬之智」と思い込んで、講演をし、駄弁本を発刊し続けてきた。内容はともかく、冊数だけは、150冊となった。80歳の誕生日を迎えた今日まで、地方弁護士社会的使命を果たしたいとの思いで駄弁本を書いてきた。駄弁本を送り付けられた人は、不要なものを送り付けられ、迷惑しているはずだ。内容は、とても人の役に立つものではないが、書いているとわくわくし、夢中になり、時間の経つのを忘れてしまう。

 「わくわく」とは、「期待、喜びなどで心が弾み、興奮気味で落ち着かないさま」と解説したうえで、「わくわくと胸を躍らせる」などのように使うと広辞苑は説明している。80歳の誕生日を迎え、今がこれまでの人生で一番わくわくした日々を過ごしている。自分がわくわくしたいために、駄弁本を書いている。「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という生き方を提唱している身としては、まず自分からわくわくする生き方をしなければならない。

 今は亡き、哲学を語り合う友であり、医療の師と仰ぐ少し年長者の医学部教授の口癖は、「わくわくして生きなければならない」「わくわくしてやらなければならない」だった。教授は80歳に近くになり、「これからは、哲学の本を書きたい。そう思うだけで、わくわくしている」と語り、その生き方の本の最初の一冊には、「人生はわくわくしなければならない」と書いたが、残念ながらその後間もなく亡くなった。しかし、教授は一瞬一瞬を楽しみ尽くした。

 この教えを肝に銘じて生きてきた。満80歳まで生きられ、師の年を越えた。親父の年も7年も超えた。残す人生をわくわくして生きるためには、老婆心に過ぎないかもしれないが、老馬の智と思い込んでいることを、世のため人のために役立てるつもりで駄弁本を発行したり、講演をしたりしてわくわくして生きたい。

 自分としては、老馬の智と思える経験から得た知恵を多くの人に知らせたい。独り善がりかもしれないが、残す人生を楽しむためにやってみたい。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)


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