司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 〈広めるべき「基本的人権の本質」規定〉

 憲法97条は「基本的人権の本質」と題して、「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と定めている。

 意外にも、この規定はあまり学校などでも教えられる機会が少なく、この規定の存在自体を知らない国民も多いと思われる。地方住民の中にも、この規定の存在を知らない人がいる。弁護士でも、この規定については、深く勉強している人は少ない気がする。

 しかしこの規定は、人命と人権を守ることが地方弁護士の社会的使命であるという考え方に立つと、地方弁護士は、地方住民にこの規定を説き教え、広めなければならない。

 人命と人権を守るのは、その時代の国民の責任であると、この憲法を制定した当時の日本国民は宣言した。そしてそれは、その時代の国民のためだけではなく、将来の国民のためにも、その義務があると宣言した。この規定の存在とその意味内容を地方住民に知らせ、説き教える使命は、地方弁護士にあると確信する。

 日本国民に本当の基本的人権が保障されたのは、昭和22(1947)年11月3日に施行された現行憲法によってである。昭和17(1942)年5月20日生まれの我が身は、誕生当時は明治憲法下にあった。明治憲法がそのまま続いていれば、いずれ戦場に送られたはずである。

 太平洋戦争・第二次世界大戦で日本は敗れ、明治憲法から日本国憲法に変わったお陰で、80歳の誕生日も迎えられた。戦争による直接の被害体験は記憶になく、戦後の生活苦は体験したが、日本国憲法のお陰で平和の中で人生をオくれた。

 日本国憲法下では、人命と人権を究極の価値とする世の中となり、天皇よりも国よりも、一人一人の命と幸福に生きる権利を大事に考えるという平和な時代となり、楽しい人生を送らせてもらい、80歳を迎えられた身としては、日本国憲法に感謝の気持ちが湧いてくる。この感謝の気持ちを込めて、日本国憲法の本質と日本国憲法に対する国民の義務について、国民に、地方住民に分かりやすく発信したい。

 そうすることは弁護士の社会的使命であり、地方弁護士にとっても社会的使命であると確信する。地方弁護士の社会的使命は、日本国憲法を国家機関が、そして国民主権国家の主役である国民が守るように働きかけることであると確信する。そのためには、日本国憲法の本質と日本国憲法に対する国民の義務について、国民に分かりやすく知ってもらうことが不可欠である。それを知ってもらうように発信することは、弁護士の使命である。地方弁護士は、地方住民に、それを知らせなければならない。


 〈「大衆が法のプレイヤー」という考え〉

 地方病院でも、患者に対して院内検査報告書を出す。その報告書には、極めて大事な検査データが示されている。しかし、多くの患者は、その検査報告書の検査データが、どのような意味・内容を持っているかを解読できていない。その意味を知ろうともしない患者が少なくない。これでは宝の持ち腐れで、それを活用することはできない。

 これは地方医師が忙し過ぎて、患者に対し検査報告書の読み方を丁寧に説明しないからだ。医師だけが、そのデータを分かっていれば足りると思い込んでいるからだ。しかし病気治療の主役は、医師だけではなく患者でもある。患者に状況を知ってもらわなかったら、真の治療はできない。患者は医療の客体には止まらず、主体でもある。医療行為は、医師と患者の共同作業である。検査データは、一方だけが知っていればよいものではない。

 60歳から70歳までの10年間は闘病生活に明け暮れ、その体験に基づき20冊に及ぶ患者の視点からの医療の本を発行した。中には「患者が主治医」という本も発行した。食事療法では、医師のアドバイスは不可欠だが、食事療法を実際に行うのは患者とその家族である。

 そのような考え方を法律の世界に応用したのが、「大衆が法のプレイヤー」という考えである。法のプレイヤーである大衆は、そのルールである法律の骨子を知らなければならにない。そういう思いで「大衆法律学シリーズ」を発行した。ここでは、法律は学者や法曹だけのものではなく、むしろ大衆のものであることを強調した。

 この連載は、憲法をテーマにしたものではないが、憲法の骨子を、国民主権国家の国民に、地方住民に、弁護士が分かりやすく知らせてやることは、地方弁護士の社会的使命であることを強調したい。そこでこの機会を利用し、これまであまり触れてこなかった基本的人権の本質と基本的人権に対する国民の義務について、日本国憲法は、どのように考えられているかを分かりやすく簡潔に触れてみたい。ここの部分は、これまでの駄弁本でもほとんど触れてきていない。場違いかもしれない、いくらか述べてみたい。

 そういうことを教え説き、広めることも憲法の伝道師としては、大事なことである。地方弁護士の社会的使命であると考える。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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