司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 簗和生農水相の「予算カット」発言問題への批判が止まらない。簗大臣は5月の会合で、衆院選で自分を支援しなかった首長の2市町について、道路予算を「大幅カットした」と語ったと報じられた。発言は10月5日に撤回して謝罪したが、働きかけは否定し、辞任も拒んだ。国交省が彼からの予算配分額についての問い合わせがあったことを公表した後も、居座る姿勢は変わらなかった。

 「とにかく働いて、仕事で返せと言っている」。高市早苗首相は8日、簗大臣の更迭を否定する理由をこう述べ、9日の参院本会議でも「人一倍働いてほしい」と、続投の考えを重ねて明らかにした。この時点で首相が軽視していたのは、明らかに予算配分に政治的な報復が入り込んだ疑いの重さである。その重大性は、直視しなくても済むと、首相は考えたことになる。だが、簗大臣は14日、辞表を提出し、首相はこれを受理した。事実上の更迭と報じられている。

 前日13日の衆院予算委で、首相のトーンが変わっていた。「事実であるとしたら本当に不適切で、本当にダサい」。進退の判断にも含みを持たせた。映像で見た限り、表示は崩していなかった。それだけに、この「ダサい」という言葉選びが非常に気になった。

 ここで言われるような国会答弁の語彙は、本来「不適切」「あってはならない」といった規範の言葉でよかったはずだ。ところが首相は、「ダサい」という、「かっこ悪い」と言っているような、センスや見栄えの言葉を選んだのだ。狙ったかどうかは、分からない。だが、結果として、問題は「重大性」の次元から、「みっともなさ」の次元に移そうとした格好になった。もちろん「ダサい」は、簗大臣を外から眺める者の言葉ではあっても、およそ予算を削られたとされる住民の言葉ではない。

 首相は、同じ答弁で、「違法性のあるようなことがあれば、躊躇しない」とも述べた。ダサいが、違法でない限り切らない。そう言っているように聞こえる。

 ここに、二つの責任の混同がある。いうまでもなく、刑事責任は犯罪が成立するかどうかを証拠と法手続きに従って確定する問題であり、政治責任は、閣僚として信頼に足るのかという問題であり、犯罪が成立しなくても問われ得る。首相は9日、公選法違反の指摘にも、「犯罪であると仮定して見解を申し上げるのは控える」と答えている。捜査や司法の判断を待つというのは、一見慎重な態度に見えるが、更迭は政治責任の判断であり、捜査の結果を待つ必要はない。

 もちろん、個別事件について答弁を差し控えること自体は、捜査の秘密や公正と一定の根拠がある。問題は、その差し控えが政治責任にまで広がり、答弁回避のために使い回されていることだ。待つことが、そのまま逃げ切りになる。司法を尊重しているように見せて、実際には政治の責任を、司法を利用、口実にして逃れようとしているのである。

 この混同は、今回の件に限らない。裏金事件はじめ、同じ論法は責任を問われた政治家から繰り返されている。捜査中は「捜査中なので」と答弁を回避し、結果が出れば、「司法の判断は出た」「法的には問題ないとされた」と言う。これでは、政治責任が問われる局面がない。

 社会は、これをどう見ているのだろうか。道路予算は、暮らしに直結する。自分の自治体の予算も、首長が誰を支持したかで左右され得るのか。この疑念は、発言の撤回では解消せず、解消できるのは配分の経緯の説明だけだが、納得できる説明は、いまだ示されていない。

 かつて「禊」が成り立っていたのは、辞任を迫る力があり、辞任が責任の取り方として受け止められてきたからだ。首相が仮に動いたとしても、問われるのは何が首相を動かしたのかである。行為の重大性を直視した結果なのか。それとも、持ちこたえられなくなっただけなのか(「高市首相『反省点ない』発言から見えたもの」)。

 後者ならば、「直視しなくても済む」という判断は何も改められていない。辞任は一人の閣僚の問題は片付けても、本質的な責任の取り方の問題も、まして問題の本質にメスをいれることにもならない。責任を力も、辞任一回で使い切るものでもない。

 14日、簗大臣の辞表を提出し、首相は受理した。では、何が首相を動かしたのか。首相が理由に挙げたのは、消費施税減税関連法案など重要課題への対応と、任命責任だった。簗大臣本人も、国会審議への影響を辞任の理由にした。そこに予算配分をめぐる疑いの重さを直視した説明はない。

 形の上でも更迭ではなく、「申し出を受け入れた」とされ、責任の所在はぼかされている。これは責任の取り方の回復ではなく、持ちこたえられなくなった結果に見える。辞任という幕引きは、一人の官僚の問題を片付けるとしても、「直視しなくて済む」という判断は、何も改められていない。

 はっきりしたことは、要するに簗大臣にしても、高市首相にしても、その発言や答弁を見る限り、住民・国民の目線に立ってこの問題を見る感性と意思が決定的に欠落しているということなのである。



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