司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 

 「世紀の大発見」が、およそ想像を絶する、というより想像したくないようなお粗末な結果に終わる可能性に、それこそ日本国じゅうに落胆が広がりつつある。「STAP細胞」の「快挙」は、いまや「騒動」という扱いに変わったといっていい。連日のマスコミ報道で流される、次から次へと出で来る、研究成果をめぐるずさんさと疑惑。「STAP細胞」と「ねつ造」の、二つのあるなしに、この社会の深刻で、不安な関心が向けられている。

 

  「落胆」の中身は、多くの識者がいうように、まずこの発見に多くの人が期待したという事実があったことはいうまでもない。ヒトの細胞での作製が成功すれば、輸血用の血液や治療に使う臓器を作ることができる、ガン抑制、「夢の若返りも」――。発見者側から流れてくるそんな「成果」に、もちろん社会が期待と称賛の声を送ったのは当然だ。それが、裏切られたという話だ。

 

 だが、今回の「快挙」にはもう一つのストーリーがあった。それは、「若き女性研究者」の「権威」に対する挑戦、そして勝利というものだ。外的刺激で細胞が初期化、しかもあまりに簡単な技術――。「権威」ある英科学誌が、一度は「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄していると酷評」し却下した、というエピソードもくっついている。「権威」が驚く信じられない発見を、学位2年目の若き女性研究者がやってのけてしまった。いわば、「権威」に対して、してやったりの、痛快感がこのストーリーにはあった。「若い」から、あるいは「女性」だから舐めるな、と言いたくなるような、「権威」への一撃だった。

 

 それが、しぼみそうな事態になった。落胆の大きさには、この痛快なストーリーの反動があるように思える。しかし、といわなければならない。実は、怪しくなってきたとみなければいけないのは、このストーリーそのものではないか、ということだ。

 

 もし、今回の「世紀の大発見」が「快挙」のまま、「騒動」にならなければ、少なくとも社会は、このストーリーを前記したような「権威」に対する若き女性研究者による、痛快談で終わらせていたと思う。ただ、この「発見」への疑惑が、いわば責任問題に発展して、社会はこれが「若き女性研究者」一人のお手柄のような快挙でないことを、改めて知ったといわなければならない。今回の論文には、ベテランを含む4チーム14人の研究者が名を連ね、そしてなおかつ、日本を代表する「権威」ある機関で行われた研究だ。そして、さらにいえば、「権威」ある日本の報道機関も、結果的にこれを称賛した。

 

 つまりは、これもまた、「権威」の中で行われたことだった。「若き女性研究者」は「たまたま」リーダーだった。いや、「たまたま」といわなければ、前記「痛快談」の凄さからすれば、話題づくりを目的とした、もっと嫌な「権威」による演出という見方までできてしまう。そして、「権威」のなかで行われてしまったことだとすれば、今、騒動となっているお粗末さは、すべて「権威」自らが招いた自爆、自損事故といわなければならない。

 

 要は、ベテランの研究者を含む複数の研究者がつきながら、「権威」ある研究機関のなかで、「お粗末」は通過した。「業績偏重」ということも指摘され始めているが、なによりも現場の研究者も、「権威」ある機関も、その上の「権威」ある機関のチェックを通る、と、なぜ考えたのか、と言いたくなるような甘い見通しがあったようにみえる。これが、また、「権威」の外にいる人間には、それこそわれわれにはできないような「権威」軽視として、理解不能だ。

 

 結果、かかわった研究者はもとより、研究機関も、掲載した「権威」誌も傷つきかねない状況となり、今、「権威」の側が、倫理と信頼性を取り戻すための方策を迫られる形になっている。私たちがみているのは、「権威」を壊すのが「権威」である現実ではないか。「権威」が「権威」を舐める、油断と軽視――。いくら私たちが「権威」を信頼し、それに尊敬の念を向け、あるいは称賛の言葉を送っても、彼ら自身によって壊されてしまう。

 

 そう考えれば、たまたま発覚して、我々が「裏切り」に落胆しても、むしろそれはこの社会にとってよかった、ということにもなる。腐敗した「権威」に私たちが騙されるのでは、結局、社会が犠牲になることだってあり得る。今回は、「食い止められた」とみることもできるが、半面、「権威」のなかの油断と軽視が浮き彫りになった、ということもできる。

 

 そして、これは、無論、最先端科学の分野のなかだけの話ではない。「権威」はこの社会のあちこちで、自爆・自損事故を起こし出しているように見える。「司法」の権威、法律家・法律実務家の権威、資格者の権威はどうなのか。多くの国民が求めるものは、信頼できる、安心できる、嘘のない「権威」のはずだ。それを「裏切る」ことになる、「権威」自ら「権威」を舐めていることになる、自損的行為について、彼らの自覚も十分だろうか。



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