司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 国民主権に対して、背を向けるという意味で、極めて「露骨」な法案といわなければならない。政府が秋の臨時国会提出を目指している、いわゆる秘密保護法案である。政府は今月3日、同法案に関するハブリック・コメント募集を開始したが、その受け付け期間はわずか2週間。同日から募集が開始されたパブコメ7件のうち、この案件以外は、いずれも締め切りは10月2日である。日弁連は、今月12日に発表した意見書のなかで、期間の2カ月延長を求め、その理由のなかで次のように指摘した。

 「このような重要法案が国会に提出されることをこれまでほとんどの国民は知らなかったのであるから、政府が真に国民の考えに耳を傾けるつもりがあるのなら、通常の意見募集期間である1か月以上の期間を定めて意見募集すべきである」
 「ことの重大性を承知していながら、2週間しか意見募集期間を設けないことは、国民が深く考える時間を与えず、国民の考えを広く聞くことなく、立法化を進めることを宣言しているのと同じである。これは、国民主権原理を真っ向から否定するものである」

 恐るべき指摘である。国民が知らないことを承知で設定されたこの募集期間は、意見募集を掲げながら、実は意見を真剣に聞くつもりがないこと。つまり、国家が情報について、国民に目隠しをしようとする、国民の「知る権利」が損なわれることが予想される法律の制定に当たって、既に政府の姿勢は国民主権に露骨に背を向けたものになっている、という現実である。まさに、この法律が目指し、わが国にもたらされるものを、象徴しているといってもいい。

 「防衛」「外交」「安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の4分野のうち、秘匿の必要性が特に高い情報を行政機関の長が「特定秘密」に指定。故意に漏らした公務員には最高懲役10年。共謀、教唆、煽動、未遂犯も処罰対象に。秘密にされる内容は、あいまいで、範囲・処罰拡大に歯止めがない半面、厳罰化だけが、明瞭に打ち出されている。既に各メディアも、記者の委縮も含めた報道活動への影響を問題視しているが、ブロク等で個人がネット上に広く情報を発信できる時代に、大きな不安要因がそこにはある。国家が情報を隠ぺいするという現実に関して、われわれは原発問題という、まさに現在、進行形の問題を抱えているなかで、国民の不安や問題意識に目を向けていないととれることにおいて、まさに「露骨」な内容を持っている。

 ただ、「露骨」ということにおいて、さらに付け加えておかなければならないのは、この法律の必要性にかかわる「アメリカ」との関係だ。日弁連意見書は現行法制によっては十分な秘密保護ができないために新たな法制が必要とする政府の主張に対し、防衛情報の漏えいとして問題とされている事案については十分な事後対策が行われ、再発防止策がとられている現実を指摘したうえで、こう真実をこう見抜いている。

 「政府の上記意見は、日本の防衛情報の漏えいが現に防止できているか否かではなく、日米関係の深化とともに、軍事・防衛面での日米の協力関係が深まり、軍事秘密の共有化が進んでいることからの政治的要請に基づくものである」
 「日米の軍事的協力関係の深まりの中で、秘密保全法制は重要な位置付けがなされていると見られる。2012年8月に発表された、米国戦略国際問題研究所レポート『米日同盟』では、アジア太平洋での日米共同の軍事行動を強化するための方策として、日本政府に対して,防衛省の秘密保護に関する法的能力の強化を勧告している。また、同年7月に公表された国家戦略会議『平和のフロンティア部会報告書』と自民党『国家安全保障基本法案(概要)』では、いずれも憲法9条の政府解釈を見直して、集団的自衛権行使とともに、秘密保全法制の制定を提言している」
 「すなわち、本件法案は,集団的自衛権行使を含む日米共同の軍事的抑止力で我が国の平和と安全を守ろうとする政策の不可分の一部となっており、憲法第9条及び前文が規定する恒久平和主義と相反するものである」

 にわかに注目されている集団的自衛権の問題とまさに一体となった、背景と目的を共有する問題、むしろ、国民として、そうみなければならない問題であることがはっきりしているというべきで、それもまた、「露骨」という表現にふさわしい。

 ただ、最も恐ろしいことは、ここまで「露骨」な法案であるもかかわらず、その「露骨」さに国民の目がまだ、向いていない、ということである。むしろ、向かないというヨミと自信が、前記パブコメの対応を含め、制定への動きにつながっていることこそ、われわれが今、まず、最も危機感を抱かなければならないところのように思える。



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