〈終わりのあとに来るもの〉
「しかし、バブルははじけるもの。過払い金案件も2010年になると頭打ちとなった。消費者金融大手4社は過払い金返還に体力を奪われ、最大手武富士が2010年9月に破綻・・過払いバブルははじけ、潤っていた弁護士界の環境は一変した。過払いをアテにしていた弁護士たちは、いっせいに次の飯のタネを探さなければならなくなった」(ダイアモンド・オンライン編集部 片田江記者)。
法律業界この5年間の「空前のバブル到来」は、弁護士業界にも司法書士業界にも、「アデイーレを初めとした振興の弁護士法人」以外にも、全国に多数の過払い成金資格者を登場させた。広告業界、IT業界の営業マンたちは、これら過払い成金弁護士、司法書士の事務所に毎日のように押しかけた。
「弁護士業務は他の業界と違って、仕入れもないし・・無借金」(石丸弁護士)なのは、司法書士も同様だから、登録以来始めて手にした大金と巨額な税金に驚いた弁護士司法書士たちが、巨額な税金を払うくらいならと広告費の大盤振る舞いに及ぶというのは当然の成り行きだった。
しかしこの世界にも秋が来て、今は厳冬の予感に慄いている。業界の秋は2010年9月の武富士破綻の頃に訪れた。私の事務所が業務縮小を始めたのは、先立ってこの年の7月、事務所職員との横浜クルージング花火大会が終わってからのことであった。東京港に打ちあがる花火を船上からほろ酔い気分で眺めながら、過払いバブルも花火のように打ちあがり消えて行くよと、90年代末に初めて受任した悲惨な自己破産案件のことを思い出していた。登記のあいまに自己破産案件の代書をし始めたのだが、依頼人は費用もなく弁護士にも見放された自殺一歩手前のような人達ばかりで、月賦の費用は良く踏み倒された。当然のことだが請求するわけにもゆかなかった。
かくして、過払いバブルのはるか以前から、被害者の会グループの誹謗中傷や根拠ない倫理的非難、商業主義非難にさらされながら、それに正面から反撃し対決していた私や「アデイーレを初めとした振興の弁護士法人」には、石丸弁護士が言うように借金はないだろう。しかしバブルさなかで市場に参入した弁護士、司法書士たちは、その高収益性に着眼して、将来売り上げを前提とする広告計画や人員配置計画をたて、その予算に必要な借金をしたところも少なくないだろう。
不動産バブルであれほど懲りたのに、人間はバブルに踊り借金をし、そして破綻する。その一方で、バブルのおこぼれに与れず憤懣と嫉妬心に心をヒリヒリと焼いていた人達は、強欲と商業主義の破綻、その当然の報いでもあると、正義感情を満足させ、やっと安らかな自己を回復させる。考えて見るとこの図式もおなじみの光景ではないか。
「過払いをアテにしていた弁護士たちは、いっせいに次の飯のタネを探さなければならなくなった」ということだが、それは司法書士も同じだ。司法書士にとっての「次の飯のタネ」は、登記であり、簡裁代理業務であり、成年後見事務、渉外業務分野の4分野ということになる。その中でも「成年後見事務」の人気が高く、最近の関係講習会はいずれも満員の盛況である。しかし、債務整理に代わる「次の飯のタネ」を探すのは容易なことではない。
この10年の司法書士開業者の多くは債務整理ビジネスに関与している。登記分野の仕事は、不動産バブル崩壊後、長期不況の影響を正面に受けて、受注低落に歯止めがかからない。その縮小している分野に、訴訟の出来ない司法書士が集中するものだから、少ない顧客をめぐる競争はいよいよ厳しくなる。厳しい価格競争の結果、収益性は低下する一方である。実は、そのためもあって新人の開業時には、その収入の多くを債務整理ビジネスに依存せざるを得なかったのだ。
私などは本来登記が専門の典型的銀行依存司法書士だったから、登記復帰は技術的には容易だし、登記完全オンライン時代の到来を待ち望んでいるという立場にあるが、債務整理ビジネスしか知らず登記事務経験のない司法書士の将来は、金のとれるプロの資格者としては相当に厳しいものとなるだろう。