司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 「個人の尊厳と自由」という現憲法の核心は、日本人の歴史と生活慣習に由来する原理ではない。この価値観は、名誉革命以来のイギリス人の生活慣習の中から生まれたものである。だから、新憲法施行後70年も経つのに朝日新聞記者がいくらそのことを警告しても、憲法13条の精神「個人の尊厳と自由」は、日本人の生活慣習、社会慣習になかなか浸透して行かない。

 

 つまり「自由主義の人間至上主義」という宗派は、いくら宣教してもそれだけでは日本の普通の生活者には支持されないのだ。何故なら、日本人は大和朝廷から今日に至るまで人間至上主義宗教ではなくて、有神論宗教を信仰し、かつ現在でも天皇を使徒とする神社神道(アミニズム派)を社会生活、政治生活の基軸としているからである。その証拠に我が国憲法の第1章第1条は、天皇という普通人とは異なる特別な人の規定から始まっている。この規定を残したのはマッカーサーであったが、欧米人は今でも日本は民主共和国ではなく君主国と思っている。

 

 聖徳太子の和と協調、集団においては自己を抑えて集団の利益に尽くすのが善とする価値感情が、実際の日本人の心であり、日本人を支配している。そうとすれば、諸個人はその作られてきた、作られている外部環境に向けて、大量の「ホルモンや遺伝子、シナプス」を動員するから、従って、西洋人の人間至上主義宗教は、なかなか日本には定着しないのである。今、天皇の退位に伴う元号の変更が議論されているが、印刷屋は儲かるかも知れないが、全く憂鬱になってくる。

 

 朝日新聞記者は元旦号の論説で、こうした「個人の尊厳と自由」の理念が、「日本の政界にあまねく浸透しているとは到底いえない。自民党は立憲主義を否定しないとしつつ、その改憲草案で「天賦人権」の全面的な見直しを試みている。例えば、人権が永久不可侵であることを宣言し、憲法が最高法規であることの実質的な根拠を示すとされる現行の97条を、草案は丸ごと削った。立憲主義に対する真意を疑われても仕方あるまい。」と論じている。又

 

 「個人、とりわけ少数者の権利を守るために、立憲主義を使いこなす。それは今、主要国共通の課題といっていい。環境は厳しい。反移民感情や排外主義が各地で吹き荒れ、本音むき出しの言説がまかり通る。建前が冷笑されがちな空気の中で、人権や自由といった普遍的な理念が揺らぐことはないか、懸念が募る。目をさらに広げると、世界は立憲主義を奉じる国家ばかりではない。むしろ少ないだろう。」とも論じている。

 

 当然に私も同感ではあるが、そのことが今の働き盛りの日本人の心にどれくらい響いて行くものか疑問だ。言葉の背後には意味と想像力による何らかの像があるはずだが、多分、今日では、その内容は個人個人によってバラバラだろう。教科書で繰り返されてきた表現、単なる文字の列挙、アメリカの独立戦争、フランス革命、啓蒙主義、進歩という言葉、その言葉が訴える先は、個人の脳細胞であり、そこを走り回る電子パルスでありイオンであるが、その反応としてその個人の「ホルモンや遺伝子、シナプス」をどの程度動かすか、それも又、経験体験の蓄積としての個人の個々の反応ということになる。

 

 朝日新聞記者は、教科書的欧米近代の価値が当然の正義として自民党の「天賦人権」の全面的な見直しについて批判的だが、その見直しが、安倍総理の「ホルモンや遺伝子、シナプス」を強烈に動かしていることは間違いない。このような人にはどんな合理的と思われる議論も大して役にたたないだろう。選挙で落選させるしか方法はないのであるが。しかし、現行の選挙制度、代表民主制では国民の多数意見は正しく反映されない仕組みになっている。ゆえに、それは難しい。

 

 では歴史に正義はないのか。そのとおり、歴史に正義なるものは無いのだ。ただ国民多数の意見が権力統合のプロセスに全く反映されないかと言えばそのようなことは無い。出産サボタージュないし出産拒否による日本国の人口減少、すなわち日本国民の再生産拒絶が、日本国政府への日本人民の実存的投票の結果ということではないか。

 

 歴史や政治過程を予測することは不可能である。何故なら、これが台風や気候のような物理的プロセスであれば、データのストック量次第で予想は正確となってくる。ところが政治プロセスや株式価格の予想となると、その予想自体が予想されそれが予測に影響を与える。したがってそのような複雑系の正確な予測は不能ということになる。

 

 それでは、来るべき未来社会の予測は全く不可能かと言えばそうでもない。人口の動向に基づけば、この数値は確定したものであり、その予測が現在の基礎となるデータに何等の影響も与えないから、10年後20年後の社会の人口構成はかなり正確に予測できる。これをもとにすれば国民所得や国家予算の規模などもおおまかな未来図は書くことが出来る。

 

 1969年、R・テイラーが「人類に未来はあるか」という本を書いた。その時から50年近くたつ。人口爆発は起らなかったし、エネルギー資源不足も起らなかった。北朝鮮の核ミサイルICBMが完成しないうちに、先手を打ってピョンヤンを核ミサイルで奇襲し全滅させるのはアメリカファースト維持の有力な一手だが、その一手をトランプさんが打たない限り、地球の平和はもう少し続くだろう。選挙や投票による代議制民主主義の無力感はもう少し広がって世界は今とは異なる仕組みとなりそうだ。これまでの司法も正義も、どこの国でもくたびれて来た。凄惨な犠牲者を出した第二次大戦後に、廃墟の中に見えた明るい空はもう見えない。福祉国家も国際連帯も空洞化し始め、知識人の間には無力感が広がり始めている。それでも未来が全く見えないわけではない。



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