司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 「『デイサービスに行った方がいいですよ』と患者さんに言っていたのに、今度は自分が行くことになった。昨年6月に転んで骨折してから週1回通っているが、学ぶことが多いね。午前中に入浴があって、スタッフが体を洗ってお風呂に入れてくれる。いかにスタッフが訓練を受けて、一人ひとりの利用者の情報を持っているかがケアでは大事なのか、その言葉やしぐさからわかる。自分の体を通して、勉強している」と長谷川先生。

 

 私も又それほど遠くないうちにこのような施設に世話になることになるのだろう。現場には、品川の社会福祉協議会の市民後見人養成講座の実地研修で行ったことはあるし、脳梗塞で施設に私の高校時代の同級生もいるから(私の知人が後見人となっている)、馴染みがないわけでもない。しかし、「いかにスタッフが訓練を受けて、一人ひとりの利用者の情報を持っているかがケアでは大事なのか」が重要であるかは品川社協の実地研修でも良くわかった。スタッフ達は日々「自分の体を通して、勉強している」のだそうである。

 

 認知症にかかわり始めてから50年の、この長谷川医師が実は「痴呆」の名称変更を要望し、国に働きかけ認知症という名称となったということだ。「2004年まで、『痴呆』と呼ばれていた。差別的な表現で、何もわからなくなる、というイメージでとらえられてしまう。痴呆になるのは恥ずかしいことだという偏見から、早期発見や診断を妨げている原因にもなっていた。昔、調査で首都圏の郊外に行ったら、納屋のような所に隔離されていた人を目の当たりにした。かぎもかけられ、隣は馬小屋だった。隠す存在という、ひどい時代もあった」という。

 

 しかし、認知症には軽度から重度まで様々なレベルがあるし、又、それぞれの人生を反映して症状も個性的なのが、この病気というかサルコペニアのような高齢化症といった方が良い認知症の特徴である。私は、成年後見人の申し立て手続きは何度もしたことがあるが、後見人はお断りしている。司法書士会の作った後見人指導団体である「リーガルサポート」は大分前に脱会してしまった。後見人職自体にはとても自信がないし責任も負えないからだ。第三者後見人には、司法書士、弁護士が裁判所から選任されているようだが、私は、後見人に求められている職務は、決して法律家、法律実務家に向いたものではないと思うし「リーガルサポート」どころではない。まず金勘定より「ケア」と想像力と、それから多分人生経験が成年後見人には必要なのだと思う。

 

 長谷川先生は、認知症対策は「まだまだ不十分だけれども、10~20年前に比べたら知識は著しく広がった。『認知症の人と家族の会』の功績は大きい。国に対して提言する力を持つようになった。全国に支部があり、国や地方自治体に声を上げているから、もう無視できない」と言われている。実際、最近になって自治体も市民後見人の育成に乗り出して来た。一部で制度の行き詰まりが言われる中で、市民後見人が、成年後見制度の新しい展開を見せてくれるか期待される。

 

 「認知症になっても心は生きている」とはどういうこと?

 

 それは「『特別な病気になった何にもわからない人、だからなんとかしてあげないとかわいそうだ』。それは、だめだよ。自分と同じ『人』だということ。根本的な治療がないのは知っているが、それ以上のことは多くの人が知らない。なんていうのかな、周囲は本人に尋ねることはしても、本当にその人の話を聞いていることは少ないように思う。確かに、できないことは増えていくけれど。「何も話さなくなるかもしれない。ご飯を食べなかったり、暴れたりするかもしれない。その時も『大丈夫よ』と言って、その人が好きなものを尊重する。同じ目線の高さになって、ね。得意なことを生かして、その人に役割を持たせることも大事。人という漢字は、人と人が支え合ってできている。それが『パーソン・センタード・ケア』だ」と長谷川大先輩は言われる。その人を尊重する、同じ目線になって・・。これが、どういうわけか、弁護士以上に司法書士は不得意なのだ。
 

 最後に、当事者や家族が暮らしやすい社会とは、どんな社会ですかという質問に、
 「観念的になるかもしれないけれど、ぬくもりや人と人との絆がある社会。たとえば、おいしい梨が届いたら、隣近所に分ける。今度は、うちに柿が届いたからあげましょう、といった交流があるような。少しずつでもいいから、広がっていけばいいね」
 「一気にバラ色をつくるのは難しい。一人ひとりに考えが染み渡り、努力してつくるより道はない。まじめに、地味に、やっていく。それは僕も心がけている」
と師匠はおっしゃった。

 

 昔し、子供の頃、あそこのじっちゃんボケた、ばあちゃんボケたと噂しあってカンけりしていた。その頃と現代、子供や老人にとってはどちらが暮らしやすいだろう。兄弟のいない子供達、後見人と裁判所に管理される老人達、どちらも寂しい風景だ。



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