司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 第1回 狂った15年

 石原慎太郎氏が若かった頃、田原総一郎氏が左翼バリバリだった頃、大島渚監督の「日本の夜と霧」という普通の人には理解できない学生運動ものの映画を見て同伴喫茶なるところで恋人たちが抱き合っていた頃、「狂った果実」という日活映画があった。

 「狂った果実」・・・弁護士司法書士の前に10年前忽然と現れたサラ金過払い金返還請求市場、この過払い金、私には「狂った果実」に見える。しかし、日本の消費者金融市場が生み出した「狂った果実」を食べてパンク寸前にまで腹を膨らませている弁護士司法書士の数は、左右を問わず全国5000人ではきかないだろう。

 1970年代大成長し、その貸付残高が70兆円、当時の国家予算と同規模になるまで成長した俗称、クレサラ、日本の消費者金融も今確実に崩壊しつつある。この弁護士司法書士にとっての大市場は、当時東京会の理事をしていた司法書士である私が、公正取引委員会を訪問し、その後、夕刊紙と産経新聞暮らしのインフォメーションに「自己破産15万円」の広告を打った、その時から始まった。

 この広告が、弁護士独占の壁を崩し、激烈な競争を、弁護士司法書士の世界に引き起こし、その結果、何百人ものクレサラ長者を誕生させることになった。ミライオもITJもアデイーレも、登場するのはそれから1年後のことだった。

 弁護士司法書士長者の誕生は、同時に消費者金融業の衰退を意味する。消費者金融業の最大の顧客層は、世帯年収が300~400万円台の層であったが、貸金業法改正での貸金業者への貸し出し規制の影響もあるだろうが、実は、この顧客層からなる多重債務者たちの多くが、この5~6年の間に債務整理をし、中には返済どころか、過払い金の返還を受けて、それを基金として生活を再スタートさせている人たちも少なくなかった。

 もちろん、当然、中には再借入を試みる人たちもいるが、これはブラックで借り入れられない。結局、多重債務者たちの多くが、借金を整理した上で、自分の収入の中で暮らして行くという当たり前の人生を踏み始めることになった。

 つまり、クレサラ司法書士弁護士達は、消費者金融から利益を吐き出させて、借金リスクを、庶民の暮らしから追放したということなのであり、ワーキングプアー層の究極の貧困化をも押しとどめたことにもなる。

 実際、「狂った果実」を得るための、インターネットを駆使した多大な広告費をかけての、弁護士間、司法書士間の欲望のマネーゲームがなかったら、そのような成果が生まれたかどうか疑問だ。1970年代、クレサラ業界発展と並行するように、現宇都宮日弁連会長率いる共産党民商系クレサラ被害者の会も、全国的に組織を拡大して行くのであるが、それはあくまで弁護士業務独占の上での展開に過ぎなかったから、無担保金融の借り手である庶民大衆の間にまでは広がって行くことは無かった。

 自己破産や債務整理が国民の消費生活の中に急速に定着して行くのは、自己破産や債務整理の弁護士独占が崩れ、独占の元に隠れていた膨大なサービス需要が発見され、消費者金融からの利益剥奪競争が、激しく弁護士間、司法書士間、相互間で繰り広げられるようになってからである。

 この15年、登場したビルゲイツ、小泉総理、ホリエモンとならんで、債務整理ビジネス爆発、過払い金弁護士長者続出の15年、これは狂った15年だったのか。でも私にとっては懐かしく愛すべき15年であった。

 地震津波原発に足元から揺らいでいる日本国のこれからの姿は、この狂った15年の中に見えているのかもしれない。もちろん最悪の展望が見えてくるのかも知れないが。 



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