私は、平成27年12月3日、東京司法書士会より注意勧告処分を法務大臣認定資格のない清家亮三東京司法書士会会長から告知されました。とりあえずは地位保全の仮処分を申し立てましたが、以下は申立書、準備書面の全文です。
注意勧告処分取消仮処分命令申立書
平成27年12月14日
東京地方裁判所民事第九部 御中
〒141-0031
東京都品川区西五反田2-24-7 シティコープ西五反田309号室
債権者 勝(しょう)瑞(ずい)豊(ゆたか)
(東京司法書士会会員 品川支部)
電話 03-3495-4128
ファクシミリ 03-3495-4155
仮処分により保全すべき権利
1 消費者金融の店舗に近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件などの勧誘をする権利(憲法21条1項の保障する表現の自由権、営利的言論の自由権およびそれに含まれる事業者の情報提供権と消費者国民の情報受領権すなわち知る権利)
2 依頼者と適法に委任契約を締結し実行するについて、合理的な理由なく司法書士に面談事務を強要するなど事務の遂行を妨害されない権利(憲法22条1項の保障する営業の自由権)
申立の趣旨
債務者は、債権者(登録司法書士及びその登録補助者)が、消費者金融の店舗に近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件などの勧誘をすることを妨害してはならない。
債務者は、債権者(登録司法書士)が、依頼者と適法に委任契約を締結し実行するについて、合理的な理由なく、登録司法書士に依頼人との面談事務を強要するなどして、結果として債権者の事業活動を行う地域等を制限し、その事務の遂行を妨害してはならない。
債務者が、「平成27年12月3日に債権者に言い渡した司法書士法第61条及び東京会会則第118条第1項規定による下記内容の注意勧告処分(東司業発第132号平成27年12月3日 注意勧告書 甲1号証)」は無効違法であるからこれを取り消すとの裁判を求める。
記
第1 消費者金融会社の店舗の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと。
第2 依頼者と面談することなく、債務整理業務を行わないこと。
第3 法令、会則、司法書士倫理を遵守し、公正かつ誠実に司法書士業務を遂行すること。
申立の理由
第一 被保全権利
1 当事者
債権者は、当事者目録記載地において、司法書士法第3条に規定された業務を行う東京司法書士会の会員であって、債務者は、当事者目録記載地において司法書士法52条により設立された団体であり、国家試験に合格した有資格者は、この団体に登録し会則に定められた会費を納めなければ、司法書士法第3条に規定された業務を遂行することは出来ない。いわゆる強制加入団体であって、公共性を理由として憲法第22条1項の保障する規定の例外としてその存在が法律によって認められている団体である。
2 債権者の地位
会員である債権者は、司法書士法第47条により、「この法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、その事務所の所在地を管轄する法務局又は法務局の長」により懲戒処分を受ける立場にあり、その「司法書士法は、司法書士会及び日本司法書士連合会の会則の遵守義務についても規定している(法23条)から、司法書士会及び日本司法書士連合会の会則に違反したことも、司法書士法違反処分理由とする懲戒事由になる」(注釈 司法書士法 369p 小林昭彦 河合芳光著 テイハン)とされている。ただし立法者解説書は続けて、会則違反は懲戒事由となるから「会則を制定することや、司法書士の権利義務に直接関係する事項等について会則を変更することには、法務大臣の認可が必要とされている(法54条1項本文、64条本文)」(同上書 369p)と注意を喚起している。従って、債権者は、司法書士法、法務省令等施行規則、会則に違反すれば、懲戒処分を受けて、その結果営業上の損害や最悪の場合、職業も失うことになる。債権者は、所属する債務者との間ではそのような法律的な関係に置かれている。
なお本件における「注意勧告」については会則118条で規定されており、その118条2項では「会員は、前項の注意又は勧告に従わなければならない」とあり、違反すれば会則違反で懲戒の対象となるから、注意勧告を受けた行為は実質的に禁止されることになる。
3 本件申立てに至る経緯
(1)債権者は、平成27年12月3日、債務者より法61条及び東京司法書士会会則第118条第1項による注意勧告処分の告知を受けた(甲1号証)。処分の内容は下記の通りである。
記
注意勧告
第1 消費者金融会社の店舗の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと。
第2 依頼者と面談することなく、債務整理業務を行わないこと。
第3 法令、会則、司法書士倫理を遵守し、公正かつ誠実に司法書士業務を遂行すること。
(2)上記処分につき、債務者は、平成27年11月16日付の東京司法書士会注意勧告量定第1小理事会の決議書(甲2号証)をもって、その処分の理由について述べている。
しかし、注意勧告第1については、理由の前提となる要件事実の認識に重大な誤りがある。そもそも、債権者は過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘はしていないのである。
又第2の依頼者と面談していないという事実も、存在していない。
債務整理事件については、必ず債権者の事務所に帰属する登録司法書士又は登録補助者が、しかも、複数回面談しているのであり、注意勧告第1、第2項の禁止命令は、いずれも、憶測、推測により虚構された事実を基礎にするものであるから無効である。
(3)事実の経過
決議書(甲2号証)でも明らかなように、事件の発端は、消費者金融業者であるアコム株式会社とアイフル株式会社が、債権者が国道沿いのショッピングセンターなどにある、彼らのいわゆる「お自動さん」、ATMのボックス近辺で、「無料残高確認サービス」と題した案内チラシ(甲3号証)を、債務者に配布したことが司法書士法の品位保持義務違反であるとして、東京法務局長に懲戒権行使を申立て(法49条)、東京法務局長が東京司法書士会会長に調査を委嘱したことにある。
地方の消費者金融債務者の多くは、車の便もあって、カードローンの返済はショッピングセンター内か、無料駐車場などにある消費者金融業者のATMボックス(自動借入、自動返済機)を利用する。問題は、消費者金融債務者の返済時に、自動的に出てくる消費者金融業者の領収書に記載されている返済時の債務残高が、約定金利のまま、すなわち利息制限法違反の金額がそのまま掲載されているということである(ATMの領収証 甲4号証)。
従って、その業者の示す債務残高を、消費者金融の債務者は信用せざるを得ず、それを信用してすでに返済義務が無くなっているにもかかわらず毎月ATMに返済に来ている消費者金融債務者が少なくないのである。例えば、平成11年7月26日にアコム株式会社の店頭でカードローン取引を開始した主婦A(57歳)の場合、平成18年2月18日に残債務は0となり以後は過払い状態が続き、平成27年9月28日まで取引が続いているが、このようなケースは不思議なことではない(債権者再計算書 甲5号証)。注目すべきなのは平成22年4月6日から平成27年9月28日まで、56か月間、借り入れもせず毎月1万5000円ずつ、欠かすことなく理由のない返済を続けていたことである。利息制限法に引き直して計算をすれば悪意受益者分を含めれば174万909円の過払いとなる。アコム株式会社の取引履歴(甲6号証)を見ると、返済の最終月、平成27年9月28日には、まだ7万281円の債務が残っていた。
マスメデイアで、5分で過払い金残高わかりますとか、インターネットで残高計算式なるものを公開している資格者もいるが、それは真っ赤な嘘であることは、消費者金融の取引履歴(甲6号証)や私の事務所の再計算書(甲5号証)を見れば明らかであろう。主婦Aのような消費者金融債務者には、貸金業法第19条の2で取引情報の閲覧請求権があるが、消費者金融業者が公開してくる取引履歴のパターンは各社それぞれに違っていて、消費者債務者がそれを読み取り、利息制限法に引きなおして再計算し、自己の正しい債務残高を確認することは、実際には不可能に近い。毎月の返済圧力にさらされ、請求権の根拠法規も知らない一般の消費者金融の債務者にとってみれば、消費者金融業者から自己の情報、取引履歴を請求することすら、事実上は困難である。
そこで、債権者は、「お自動様」ボックス近辺の公衆用スペースで、「無料残高確認サービス」と題した案内チラシ(甲3号証)を配布し、正しい債務残高計算サービスの提供を、消費者金融の債務者に広告し、その事務代行の嘱託を勧誘したのである。これに対して、法49条の申立人である消費者金融、株式会社アコムと株式会社アイフルが、司法書士の品位保持義務違反を理由に、「消費者金融会社の店舗の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと(注意勧告第1と同内容の要求)」を債権者に求めて来たのである。
株式会社アコム、株式会社アイフルの自動貸付借入機に、消費者金融の債務者が返済するたびに、自動的に発券されてくる領収書の残高欄が(甲4号証)、利息制限法違反の金額であるということは、その金額が利息制限法違反であると十分承知の上で、消費者金融の債務者を、返済のたびに錯誤に陥れ損害を拡大していることになる。それは明確に違法(民法709条)な行為であって、そのような行為を容認し、消費者金融業者の要求をそのまま受け入れた債務者、東京司法書士会の注意勧告処分「第1 消費者金融会社の店舗の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という禁止処分は、公序良俗(民法90条)に反し無効であることは当然であり、かつこのような自動貸付機による消費者金融業者の不法な行為により、現在も損害を被り続けている消費者金融の債務者、国民に対し、公共公益を目的に設立されている憲法例外的な団体としての債務者東京司法書士会が、そのような違法事態の存続をサラ金と共同して助長していることは到底社会的に容認できることではない。
(4)東京司法書士会注意勧告量定第1小理事会の決議について(甲2号証)
(ア)まず、本件処分の理由について反論する前に、債務者の本件処分についての法規の適用について、それがそもそも失当である点について述べる。
第1小理事会は、その決議11ページにおいて(甲2号証)、自ら、注意勧告について、司法書士法第61条は「この法律又はこの法律に基づく命令」及び本会会則第118条の「法若しくは施行規則又は連合会会則若しくはこの会則」に違反し又は違反するおそれのある場合にのみ注意勧告処分が出来ると論じている。その通りであるが、その同じページでは、債権者の債務整理業務における依頼者との面談について、「多重債務処理事件規範規則第5条」違反を、注意勧告第2の理由としている。ところが、「多重債務処理事件規範規則」は、東京司法書士会の平成17年5月13日の総会の決定であって、法務大臣の認可した会則ではない。従ってこの規定により注意勧告処分を言い渡される謂れは無い。同様に、決議9、10ページで、広告の方法について「東京司法書士会会員の広告に関する規範規則 第3条第6号」(「東京司法書士会会員の広告に関する規範規則」とあるが正しくは「東京司法書士会会員の広告に関する規範」である)に違反するとあるが、この規範も平成24年5月19日の東京司法書士会の総会決定であって会則では無い。よってこの規範を根拠に注意勧告処分をするのは失当というほかない。
東京司法書士会会則第118条の「法若しくは施行規則又は連合会会則若しくはこの会則に違反するおそれのある」場合にのみ注意勧告処分が出来ると、会則が適用法条をわざわざ限定しているのは、先に述べた立法者見解「司法書士法は、司法書士会及び日本司法書士連合会の会則の遵守義務についても規定している(法23条)から、司法書士会及び日本司法書士連合会の会則に違反したことも、司法書士法違反処分理由とする懲戒事由になる」(注釈 司法書士法 369p 小林昭彦 河合芳光著 テイハン)としているが、その懲戒事由となるが故に「会則を制定することや、司法書士の権利義務に直接関係する事項等について会則を変更することには、法務大臣の認可が必要とされている(法54条1項本文、64条本文)」(同上書 369p)とその限定の理由を説明している。
もし強制会である司法書士団体が、団体内の単なる多数決により、団体構成員の人権を恣意的に制限し義務を課しうるとすれば、その決定、決議は憲法41条に反し、公序良俗に反する無効のものと言わねばなるまい。この強制入会団体の決議や会則の濫用を防止するためにこそ構成会員の権利義務を制限するような会則については法務大臣の認可を要するとしたものであって、この手続きを踏まずになされた団体決議による会員の権利義務制限は無効であり違法である。もしそれが認められるというのであれば、司法書士会という団体に、構成会員に対してではあるが、立法権限を認めるということになる。よって、決議12ページで援用する会則第113条の規定「会員は連合会並びに本会の会則、規則、規定、支部規則および総会の決議を守らなければならない」という規定は、訓示規定と解釈すべきであって、そうでなければ、「理事会決議、あらゆる規則規定、支部規則」であってさえも会員に対して強制力が及ぶことになる。その強制を回避するためには団体を脱退すれば良いことになるかも知れないが、それでは現在営業している法3条業務という職業を失ってしまう。このように事実上団体離脱の自由がないから、大臣認可の会則という歯止めがなければ、団体は、構成会員に、会員指導という名のもとで、どんな命令でも恣意的専断的に従わせることが可能となってしまう。
(イ)さて第1小理事会が決議で述べる違法事実の指摘につき反論する。
(A)まず広告の目的と方法であるが、広告の目的は、先述のように消費者金融の債務者に対して、残高確認の代行業務を受任することが目的であって、「過払い金返還請求事件や債務整理事件の勧誘」を目的としたものではない。
実際、返済に来る消費者金融の債務者について、どのような債務整理方針を採用すべきなのか、それとも利息制限法改正以後の借り入れで残高は減らず分割交渉をするのか、信用情報への掲載公開を避けるためにそのまま返済を続けるか、利息制限法に引きなおした残額を約定の条件で返済して行くか、民事再生をするか、自己破産を選択するか等々、債務者の残高が確定して初めて債務整理の方針が定まるのであって、場合によれば債務整理それ自体をしない、つまり受任出来ない場合も少なくない。そもそも消費者金融利用者の正確な債務残高が不明であるにも関わらず債務整理等の勧誘をすること自体、本来おかしなことである。であるから、債権者は、消費者金融の債務者から依頼を受けて、まず正確な借入残高を調査し、その結果を依頼債務者に通知することになる。依頼を受けてから取引履歴を取り寄せ、再計算し、その結果を通知するまでにはおよそ2か月ほどかかる。
その約2か月後、登録補助者が面談し計算結果を依頼者に通知した時に、依頼人からの求めがあれば、その時初めて登録司法書士が依頼人の意思を確認して一般の債務整理として受任する。一般の債務整理として受任するのは、受任事務の内容が依頼人との応答、対応の過程で様々に変化するからである。
広告の方法は、無料残高確認サービスと題したサービス提供の案内チラシ(甲3号証)と事務所案内パンフレット(甲7号証)を、消費者金融業者のATMボックス近辺で消費者金融利用者に配布する方法によるが、この方法が、これまで、利用者から、感謝されても迷惑がられたことは一度もない。本件は、そもそもが、消費者からの苦情の申立が原因であったのではなく、この残高確認サービスで損失を被る消費者金融業者、株式会社アコムおよび株式会社アイフルの東京民事法務局長への懲戒申し立てから始まったものである。「司法書士の品位又は信用を失う」と債務者は言うが(決議書10ページ 甲2号証)、評価する主役は制度の利用者であって、司法書士自身では無い。「司法書士の品位又は信用」、「教養」も含めて、それは長年のうちに自然に形成されて行くものであって、見飾っても、にわか化粧をして外観を作っても、ましてやそれを団体に強制されても、品位や教養は決して司法書士の身につくものではない。債務者(司法書士会)がもしこの広告方法を禁止するとすれば、それこそ債務者が消費者金融業者と手を組んで共同して消費者、国民の情報受領権を侵害することになってしまう。品位の問題ではなく不法行為の問題となる。