司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 Y・N・ハラリ教授の「サピエンス全史」は今、都心の書店ではどこでも平済みとなって大売出し状態にあるが、実際にこの勢いで、全国の書店で売れているとすれば驚きである。人類全史とはあるが、副題の「文明の構造と人類の幸福」という方がこの著作の内容をよく示していると思う。この書において注目すべき点は、まず何よりも、物理学、化学、生物学、分子生物学、量子物理学といった今日での最新の科学的知見を基礎に置きながら生命30億年の歴史、700万年前にチンパンジーと別れた四つ足の原人、20万年前のサピエンスの登場から今日に至り、明日の新種サピエンス、デジタル人類の登場予測までをしているところだ。

 

 火薬も紙も中国人の発明だったが、何故、そのような発明と普及が、今日の科学理論とならなかったのか。それは数学理論が発明と結びつかなかったからだという。つまりE=MC2というような普遍的な法則を導き出し表現し伝達することが出来なかったということだ。とすると中国人は、イギリスのニュートンより頭が悪かったかといえば大間違いだ。100年前にヨーロッパの帝国文化を完全コピーした日本人は、今でもそう考える傾向があるが。しかし数学の技術は、戦争好きなヨーロッパ人と中東のアラビア、ペルシャ帝国との交渉と取引の過程で、ギリシャ、インド、ルネッサンスを経由しながら、発展して来てやがて産業革命と結びついたと言った方が良い。ニュートンとライプニッツは微分積分法の発明者とされている。しかし古典力学の発見者ニュートンが晩年はギリシャの古典数学に戻って行ったというから面白い。その当時はまだΣといった記号は使われていなかった。純粋な代数学は完成されておらず、アラビア経由で発展して来た代数学も、長い間、幾何学的説明、証明を前提としていた。代数問題を立体や平面や三角を用いながら代数問題を解いているのを見ると面白い。それは代数学も長いこと実用の延長線で考えられてきたということだ。

 

 ハラリ氏は、サピエンスが二度目の脱アフリカをした7万年前、サピエンスの中のホモ(賢い)サピエンスが突然変異によって認知革命を起こしたという。この認知革命によって、ホモサピエンスはネアンデルタール人にもフローレンス人にも勝って、他にもいたかもしれないサピエンス人の別種を全て滅ぼしてしまったらしい。それまではハイエナの残り物の肉と骨から接取した骨髄液を食べていた人類は、道具、石器に変わるヤリを開発し小動物、ウサギなどを獲物としたが、その獲物がマンモスに変わるのにそれほど時間はかからなかった。7万年から農業文化にいたるまでの狩猟採集文化の時代、6万年の間、ホモサピエンスは2~30人の家族全員親戚という集団で暮らしていた。年寄りは皆物知りで、どのキノコが毒でどの草が腹痛に効果がありどのヤモリは干物にするとうまいといった自然界に対する知識を豊富に持っていてその知識は息子や孫たちに伝えられ又集団にも共有された。植物の煮炊きも知っていたし調理も熟達していた。栗やドングリは縄文式土器でゆでられあく抜きされた。口移しのベビー食も知っていた。皆、食べるものは季節の旬のものであったし、種類も豊富で、家畜もいなかったから雑菌もいないしペストなど感染症になる原因ウイルスもいなかった・・・と思われる。

 

 何故なら、チンパンジーのように小集団で移動する生活が5万年間も繰り返されたのだから、トランプや金正恩に脅迫され、忖度の安倍総理のもとで欲求不満で腸捻転を起こしそうになる現代の日本人よりは、狩猟採集の縄文時代のほうが人民は余程幸福であったに違いない。年寄りは認知症もなく介護の必要もなく肉体の寿命に従って自然に一族に見守られながらあの世に旅立って行った。

 

 6万年も続いた狩猟採集の時代、それは日本の縄文時代のことでもある。縄文時代からは戦争の遺物や化石は発見されていないし、他の集団を排斥するような環濠も発見されていない。日本の北の国には、縄文時代の幸福がついこの間まで生きていたのである。征夷大将軍なるものが西の方からやってくるまでは、何万年も続いた北の国の平和は壊されることはなかった。実際、アイヌ民族は文字を持たなかったがその必要がなかったのだ。狩猟した鮭や鹿を数えるには、10本の指の足し算引き算で十分だった。毛皮や干物やワカメをもって本土政府の出先と交易も頻繁にしたが、松前藩のセコイ侍には頻繁に騙された。カムイとはアイヌの神のことであるが、樹木にも動物にも魚にもそれぞれにカムイがやどっていて、アイヌ民族はそれら神への感謝を忘れなかった。

 

 ハラリ氏は言う。農耕文化、麦や米を作りだしてから、人類は戦争を始めた。麦や米を皆が集まって作り収穫すると、分配したり蓄積したりしなくてはならず、そのためにはその数を記録しなければならないし、約束も記録していかねばならない。それで、まずは、数字が作られて(シュメール)、その後文字が作られた。穀物という優秀な食品の生産を続けるためには(今日ではそれは血糖値増大の最大原因物質なのであるが)将校、下士官、兵隊というような組織ネットワークのもとに動員される多くの人間が必要だった。そこでその多数のお互い見ず知らずの人間たちを、とにかく前述のような組織にまとめなければならなかったのであるが、そのために、まずは、権力独占者とその利害関係人は、お互い見も知らぬその多数の人間達の頭に、共通の物語、天照大御神の物語を刷り込むことになった。その祖先の物語によって、人民たちは、見ず知らずでも天照大御神の子孫のもとで全員兄弟親戚なのだから、仲良くそろって田植えの作業をすることになった(この辺の所は日本会議の桜井さんが詳しいかもしれない)。

 

 さて農耕文化は権力支配の母体であった。農耕文化が、権力者を生み出すと、権力者一族がその人民を支配するためには、数と文字が不可欠であり、その数と文字を器用に操つるには王様の意思を実行する専門家集団が必要不可欠であった。実は、この専門家集団が、官僚であり、今では、霞が関文学や霞が関暗号を作って日本人民をたぶらかせている。江戸幕府時代には各地方には大幅な自治権が徳川家への忠誠を担保に認められていたが、役人が人民、農民を働かせていたのは今も同じだ。官僚が霞が関文学や霞が関暗号(今日では法律ともいうが)を作って権力者の代官として日本人民をたぶらかせているのは聖徳太子の頃から今日まで少しも変わらない。

 

 そして今日、我々日本人民は、第二次大戦後の明治国家崩壊以来、73年間、官僚の作り上げてきた結果としての大矛盾、役人の自己保存原理が作り出す部分合理性の総和としての全体大矛盾、2025年(その時、私は81歳)から2035年に来る大混乱の到来をじっと待っている。1000兆円の借金と膨大な年金支払い義務と莫大な医療費、介護費の支払い義務を日本国は負っている。支払い不能となるその時には、ギリシャのように官僚に給料も払えなくなる。加えて、同時に第三次世界大戦というホモサピエンス文化滅亡の可能性さえも、今や目前となっているのであった。



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