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 〈形式的法律理論が生む問題〉

 夫婦、親子、兄弟は、天というか神というか仏というか、言い方はいろいろありますが、人間の力以上の力によって与えられた深い縁で結ばれた関係にあります。そのために、夫婦、親子、兄弟の間の相続というアイテムが与えられているのです。相続問題をともに解決しなければならない仲は、特別に絆が深い人同士なのです。

 普段は、夫婦、親子、兄弟という絆は、あまり意識しないでも、極自然に深く結ばれています。それは法律によって結ばれているのではありません。生まれた時から持っている親族という縁と、互いに思い遣る気持によって、結ばれているのです。相続問題は、この縁と気持ちを大事にして解決すればいいのです。

 相続は、「いなべんの哲学」を実現する場です。相続を、「いなべんの哲学」を実現するアイテムにするためには、法律とか裁判とかいう非日常的なものに頼らないで、普段の生活の中にある気持ち、つまり日常の気持ちで、夫婦、親子、兄弟の思い遣りの気持ちで、相続の本質を認識し、理解し、納得し、譲り打って決めることが肝要となります。

 「相続に関する法律に従うのが公平だ」などというのは、形式的な主張です。「法律に従うのが正義に適う」などというのも、間違いであることもあります。

 40年間父と一緒に家業をしてきた長男と、東京でサラリーマン生活を送り、実家のことなどをかえりみたこともない二男とを、法定相続分は均等だから、家業も家屋敷も2分の1ずつ分けるのは公平だとか、正義に適うなどと主張するのは、形式的過ぎます。決して実質的平等とは言えません。正義に適うとも思えません。

 このような主張は、実質的にものを見ることのできない、机に向かって勉強しただけで、司法試験に合格したばかりの経験のない弁護士や裁判官レベルの哲学のない形式的法律知識と言わなければなりません。形式的法律理論にこだわり過ぎると、迷惑する人が出てしまいます。

 形式的には論理の筋が通っていても、現実の紛争では、関係者が納得できるような解決とはならないのです。その結果、親族関係は、裁判をする前よりも悪化してしまうのです。


 〈生き方の問題として関係者の気持ちで解決を〉

 相続問題は、法律を議論する場ではありません。人生を楽しく生きるための場なのです。法律の理屈を言い合う場ではなく、哲学を実践する場なのです。

 前例での二男の要求は、法的に成り立つと言って、二男の言い分通り裁判をなせば、二男とその妻は喜ぶかもしれませんが、長男は勿論、その妻も被相続人の妻も、そして誰よりも遺産を残し、遺言書を作った被相続人が納得できません。

 裁判所が法律に従い、二男の遺留分を認め、父が長男に単独相続させると書いた工場と自宅の家屋敷の8分の1を二男に分けよということになったら、父の思いは裏切られ、長男側と二男側とは親族関係断絶となりかねません。これでは、相続は、「人生は、いまの一瞬をまわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という「いなべんの哲学」を実現するアイテムとはなりません。

 繰り返しますが、相続を「いなべんの哲学」を実現する場にとするためには、法律より気持ちを大事にしなければならないのです。相続問題の解決は、法と裁判に解決するよりは、生き方の問題として、関係する人の気持ちによって解決すべきだと確信しています。

 相続問題に関与する裁判官も弁護士も、人の気持ちを重視し、相続問題に関与すべきであると確信します。形式的過ぎる法律論は、「楽しく生きるための相続」という目標を達成するためには、かえって足枷となりかねません。

 裁判官や弁護士やネット情報が何と言おうと、相続に関わる関係者自身が、相続は「いなべんの哲学」を実現する場であることを認識し、相続問題を気持ちで解決しなければならないのです。形式的な法律の理屈だけを並べる裁判官や弁護士は、時にはその資格が凶器のようになりかねないことを普段から強く自覚していなければなりません。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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