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  〈人命と基本的人権を究極の価値とする日本国憲法〉

 戦前、「日本人の心のよりどころ」として教え込まれた教育勅語が、全体主義、国粋主義、軍国主義に悪用されたことは間違いありません。国家によって、法律によって、政治によって、日本人の心はマインドコントロールされ、体制、つまり、支配している勢力に、無批判に従うようなってしまったのです。
 

 功成り名遂げたいという政治家と、限りなく企業拡大を探求する資本家の思うままに、日本人の心はコントロールされてしまったのです。その結果、国民は戦争に反対するどころか、これを翼賛し、つまりバックアップし、国を挙げて戦争に走ったのです。

  日本国憲法は,19条で「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定めました。誰もが、誰もの思想及び良心の自由も侵してはならないのですが、それを憲法が保障しているということは、特に「国が、国民の思想及び良心の自由を侵してはならない」という点に重点を置いているのです。

 国が国民の心に干渉してはならないという反面、心の問題ついては、国民は国を当てにしてはならないのです。国を当てにしないで、自分たちで考えるべきことです。私たちは、国や政権の悪口を言いながらも、国を当てにしずぎる傾向が強い気もします。心の問題については、国民は国から自立しなければならないのです。

 「日本人の心のよりどころは、いずこにあるのか」という問題は、国民一人一人が考えなければならない問題だと思います。国から強制されす、国民が自由に真剣に考えてみるべき問題だと思います。国民一人一人が、また多くの人が共に考えることは、まさに「思想・良心の自由」です。「集会・結社の自由」です。「日本人の心のよりどころはどこにあるのか」という問題は、国民一人一人が考え、また勉強会などで議論し、共に考えなければならない問題です。

  日本国民にも身近で分かりやすい、心のよりどころは欲しい気がします。私も心のよりどころが欲しいのです。自分の心のよりどころを見つける参考となるものが欲しいのです。その辺のことについて、拙著「旧・憲法の心」の「はじめに」で次のように述べました。そのまま転載してみます。

 「欧米を中心とするキリスト教社会においては、キリスト教の教えが心のよりどころになっている。それが凝縮されたものが『バイブル』(聖書)である。イスラム教社会においては、イスラム教の教えが心のよりどころになっている。その教えは。『コーラン』にまとめられている。儒教が心のよりどころになっている国や国民もある。地球上の人類を見ると、そのように心のよりどころをそれぞれが持っている。日本においても、戦前は、その良し悪しは別として心のよりどころとされるものはあった。教育勅語は、その重要な役割を果たしていた」

 そのように述べた上で、、私の考えを次のように続けました。

 「戦後の日本人の心のよりどころは、何に求めたらよいのであろうか。大学で日本国憲法を学ぶようになり、長い弁護士生活を経て、『日本人の心のよりどころは、日本国憲法の心だ』と確信するに至った。日本国憲法の心は、究極の価値は『人権の尊重』と考えている。人権の尊重とは、人間一人一人が持っている『幸福に人生を全うしたいという権利』を究極の価値とすることである。この人権の尊重こそ、日本人の心のよりどころとしなければならない。この日本国憲法の心は、日本人の心のよりどころとして定着してほしい」

 あれから12年が経過しましたが、今でもその考えには少しの変化もありません。人命と基本的人権を究極の価値とする日本国憲法の心こそ、日本人の心のよりどころです。

 お釈迦様は、「誰だって自分が一番大事だ」と思うのは当たり前てあり、「それを侵害されたくない」と思うのも当たり前だと見通していたようです。『自分の人権を侵害されたくない』と思うのは誰も同じですから、「他人の人権も侵害してはならない」と考えていたようです。

 このお釈迦様の考え方と、日本国憲法の「基本的人権の尊重」、即ち、「幸福に人生を全うしたい」と思う一人一人の権利を究極の価値とする考え方は、共通している気がします。

 日本国憲法の心は、釈迦の教えと近い気がします。2500年前も現在も、「永久不変、世界普遍の真理」は変わらないのです。「基本的人権の尊重」は、時代を超え、国境を越え、全ての人間に共通する究極の価値です。私がこれまで拙著「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法の心」で「戦争の放棄」シリーズを書いてきたのは、「究極の価値である人命や基本的人権を奪う戦争は、二度としてはならない」ということを言いたいからです。それは、「永久不変、世界普遍の真理」だと言いたいのてす。


 〈「完全戦争放棄」を守って生きること〉

 論理的には以上の通りですが、心情的には若い人たちに日本を「戦争ができる国」として残したくないのです。「戦争は許されない」という考え方は、私の知的側面からも心情的側面からも揺るぎない信念となっています。

 戦争は、「究極の価値」を最も大量に、かつ深刻に否定する行為であり、論理的に否定されなければならないのです。のみならず、以前紹介したアンパンマンの作者・やなせたかし氏が「ぼくは戦争は大きらい」(発行所・小学館クリエイティブ、平成25年12月21日発行)という本で、「子や孫の時代のことを考えると、世界の子供のことを考えると、黙っていられない」と述べている気持ちと同じです。心情的に「戦争は大きらい」なのです。黙っていれないのです。

 人命と基本的人権の尊重を究極の価値と考え、この世に生まれた人間一人一人が持つ「幸福に人生を全うしたい」という思いを何よりも大事に考え、そのためには、「人命を奪い、人権を侵害する戦争は、絶対にしない」と誓っている日本国憲法の心を、日本人の心のよりどころにすべきだと確信するに至りました。日本国憲法9条は、日本人にとって「バイブル」ともいうべきものです。そして、これは日本人に限られたものではなく、世界共通、人類共通のものだと確信しています。

 こう考えると、日本人の心のよりどころは身近にあったのです。しかも、比較的短い文章で、分かりやすくまとめられていたのです。それが日本国憲法9条です。日本国憲法の中核部分である「戦争の放棄」の規定は、9条1箇条だけです。丸暗記できます。私は、戦後失っていた日本人の心のよりどころは日本国憲法、特に9条にあると確信するに至りました。日本人にとって最も身近なところにあることに気が付き、嬉しくなりました。「灯台下暗し」だったのです。

 日本国憲法の「基本的人権の尊重」と「平和主義」、「戦争放棄」とそれを支える「国民主権」は、日本国憲法の大原則です。特に、9条は世界に例を見ない「完全戦争放棄」の規定です。これを守って生きることを、「日本人の心のよりどころ」にすべきだと確信しています。そのことを、声を大にして言いたいのです。言わずにはいられないのです。

 日本国憲法は、日本人にとってキリスト教世界の聖書やイスラム教世界のコーランや中国・朝鮮の論語に匹敵する存在だと思います。わずか103条の短いものです。日本国もんなら、前文を含めてその骨子だけでも知っておいた方がよいと思います。是非知ってほしいのです。

 それでも憲法全文ですと、条文は103条あり、その他に前文もあります。全部暗記するのは大変です。ですが、9条は日本国憲法の核心です。それを覚えるだけでも十分です。第2章「戦争の放棄」は、9条1箇条だけです。9条だけは頭に叩き込んでほしいのです。そして、なぜこのような規定があるのかを考えてほしいのです。

 改めて六法全書を見るのは厄介だと思いますので、9条を転載しておきます。

 第9条

 第1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 私の「戦争放棄」シリーズを読んだ70代の会社経営者の方が、「憲法99条の憲法尊重擁護義務の規定の存在を初めて知った」と言ってくれました。そういう方は少なくありません。私の本を読んで、日本国憲法に関心を持ってくれる方が身の回りで多くでてきました。そのことを知らされる度に、「こんな駄文でも書いておく価値があるんだ」と嬉しくなります。

  9条は、誰もが知っている規定ですが、この機会にもう一度目を通していただき、なぜ、この規定ができたか、この規定の目指すものは何かを考えていただければ、時間的にも経済的にも大きな負担がありますが、駄文を発行している意味があります。9条が生まれた経緯、9条が目指すところを知っていただければ、「9条こそ、日本人の心のよりどころとなるべきものである」と思っていただけると信じています

 「日本国憲法にノ―ベル平和賞を」という声が上がりました。そうなれば、9条はもっと世界から注目されるでしょう。その意味で、私も賛同します。ですが、日本国憲法9条は、ノーベル平和賞を超越した存在だと考えています。「日本人の心のよりどころ」であり、「世界人類の心のよりどころ」であると確信しています。佐藤栄作元首相(1901-1975)や米国のバラク・フセイン・オバマ大統領(1961-)が受賞したノーベル平和賞と同視してほしくはありません。そんなレベルの価値ではありません。地球を救う、人類を救う、世界史上最高の価値を有するものだと確信しています。「世界人類共通の心のよりどころ」なのです。

 (拙著「新・憲法の心 第14巻 戦争の放棄〈その14〉」から一部抜粋)


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