司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 改正水道法、改正入管法、そして辺野古の土砂投入――。安倍政権の熟議を無視した強行の連続に、大新聞にも「横暴」「暴走」「黙殺」といった、強い批判の文字が躍っている。しかし、こうした表現を見る度に思うのは、これを見せつけられている国民側のことだ。メディアが伝える現状の緊張感や深刻さを、今、国民はどう受けとめているのだろうか。この表現とは、まるで不釣り合いな国民の反応を感じてしまうのである。

 

 はっきりした最新の結果は未知数だが、ここのところの世論調査の結果を見る限り、これまでの安倍政権の手法に対して、国民は決定的な支持率低下という「断罪」をしていない。共謀罪、安保関連法、カジノ法、そして森友・加計問題で、延々と政権批判がなされても、時ともに支持率は回復する。「国民は忘れてくれる」と民意を侮った政治家もいたようだが、このままでは残念ながらそれは的中していることになる。「国民は許してくれた」「いつも許してくれる」と言われてしまっても仕方がない。

 

 政権は、異論を無視するというだけでなく、入管法改正をみても、仮に熟議をもってして、より良い結論を導れる場合であって、政権の都合によって、もはやそれ自体必要ないという姿勢をより鮮明にしてきている観がある。「慎重に」「丁寧に」と言いながら、それを求める声は平然と無視をする。しかし、より問題は、なぜ、国民があたかも「許す」形になっているのかということである。

 

 12月14日付け、朝日新聞朝刊オピニオン面「声」の欄には、このことを考えるうえで、一つのヒントになりそうな、象徴的な二つの投稿が並んだ。ひとつは「熟議なしで憲法論議は無理」というタイトルの56歳男性小学校教員の投稿。初めにスケジュールがあり、最後は数の力という安倍政権の一貫した政治姿勢をストレートに批判する意見だ。

 

 「熟議は死語になりつつある」として、タイトル通り、そんな熟議がないところで憲法論議はできるはずがなく、強引な政治姿勢はむしろ憲法論議を遠ざけている、と主張。彼の小学校では子どもたちが、話し合い、人の話をよく聞き、折り合いをつけて合意を作り上げている、として、首相に「子どもの『熟議』を見に来られたらどうか」と締め括っている。

 

 並ぶもう一つの投稿は、60歳男性会社員の投稿で、タイトルは「安倍政権の『巧遅拙速』にエール」。安倍政権での繰り返される「強行採決」を「安倍一強政治の真骨頂」としたが、これは皮肉と思いきや、続いたのはタイトル通り、「エール」に繋がる主張だった。「迷った時には変えてみて、具合が悪けりゃまた変える。頭の痛い重要課題なればこそも、フットワークと心は軽やかに。上手だが遅いより下手だが速い方がいい――巧遅拙速の基本姿勢が時代の要請だと思う」「あと3年、要請に応えるべく『強硬路線』を貫いてほしい。それで論点が浮き彫りになり、我々も問題の本質や政治の裏側を垣間見ることができる」

 

 たまたま世代的に近い男性の意見でもあり、後者の投稿を前記した「許している」世論すべてに被せることはもちろんできない。しかし、後者の意見が受け入れられ、その目線から安倍政権をとらえている民意は確かにあるように思えてくる。結果を出せない野党の闘い方に批判的な人や、ことの重大性への認識が不足している人のなかにも、あるいは世代を超えて、こちらの投稿に賛意を示す向きはあるのかもしれない。

 

 しかし、残念ながら、一言でいえば、後者の意見は極めて楽観的過ぎるといわなければならない。国の制度は、いったん決まれば、そう簡単には変えられない。「具合が悪けりゃまた変える」こと自体は間違っていなくても、変えられないことで実害が出る。だからこそ、「迷った時には変えてみて」「フットワークと心は軽やかに」では済まない、まさに熟議が求められる案件があるのだ。それは、司法改革の失敗でも、私たちがはっきりと味わっていることだ。

 

 安倍政権の「強行採決」の案件に、「巧遅拙速」はあてはめられない。そして、一つ目の投稿氏が懸念するように、そんな発想で憲法改正を進めるなど、とんでもない話なのである。逆に言えば、「巧遅拙速」と言う言葉は、「横暴」「暴走」「黙殺」の安倍政権には、極めて有り難い「エール」になる。

 

 「想像してほしい これが自分の街なら」。12月15日付け、朝日新聞朝刊1面の辺野古での土砂投入強行を伝える記事には、こう読者に投げかける白抜きの見出しが掲載されている。朝日の読者がどうとらえるかは別にしても、安倍政権を許す国民に、この投げかけはどう響くのだろうかと考えてしまう。投稿氏のいう通りに「巧遅拙速」が「時代の要請」だとは思えないが、そうした考え方が安倍政権を「許す」世論に繋がっているのだとすれば、まず事態はそこから考えなければならないことになる。



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