司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 いわゆる「平成の司法改革」について、大マスコミは一貫して推進の呼び掛け役となってきた。つまり、「止めるな」である。

 弁護士を激増させて、その需要が顕在化しないことが明らかになっても、それでも増員基調をここで止めていいのか、と、当初の必要論ではなく、需要を作る努力すべきと言い出す。その一方で 法曹養成の中核を名乗る法科大学院が司法試験合格で当初の結果を出せず、前記弁護士の経済事情と重なって、志望者の減少が生まれても、なんとか人材を集める方向で再生せよ、と。

 弁護士に関しては、時に被災地や高齢者、子どもなどを支援対象として挙げたり、判を押したように国際的舞台が用意されているといい、あたかも弁護士の発想一つで前記需要不足の問題解決に道が開かれるように言い、魅力をもっとアピールすれば、志望者も帰って来るとも言い続けた。

 法科大学院制度でも、早くから飛び級や奨学金の拡充、さらには人材が流れる予備試験ルートを、法科大学院関係者目線と同様の「抜け道」の扱いで、その再検討の必要性を指摘してきたりした。法曹コースや在学中受験容認といった、予備試験人気に対抗するような合格「時短策」が打ち出されても、「理念」との矛盾を批判するわけではなく、むしろその効果に期待するような姿勢も見せた。

 つまりは、なりふり構わず、と言いたくなるような、現実を無視し、社会に「改革」の失敗や、これが本当に正しい、唯一の選択として、これからも続けなければならないものなのか、という問いかけをしない。むしろ大衆にそういう視点を与えない、極めて誘導的な姿勢であり続けてきたといえるのだ。

 業界内にも、このおかしさにとっくに気付いている人間たちが沢山いる。つまり、前記のように「止まる」ことではなく、「止まらない」ことを懸念する側の人間たちである。20年以上が経過した「改革」でありながら、その根本的な検証と反省のスタートラインに立てず、当時の「理念」の正しさと、その向こうに、必ずや当初描いた未来がやって来るという、もはや信仰のようなものに支えられているようにさえ見える、おかしさである。

 人口が減り続ける日本社会で、弁護士がさらに増え続け、それを支える需要が生まれる想定を、どう導き出せるのか。そして、予備試験が奇しくも証明したようにみえる、「一発試験」と揶揄した旧制度と比較して、法科大学院の存在が、その輩出法曹において有意な差異を示せていない現実を、制度必要論は本当に越えられるのか――。

 「法科大学院制度を合法的に廃止させる方法」。予備試験ルートで2022年に司法試験に合格した76期司法修習生を名乗る人物がネット空間に投稿した、こんなタイトルの一文が、最近、業界関係者の中で注目を集めた。

 法科大学院の授業の中身は、司法試験とは直接関係のない応用的なものが多く、司法試験合格に逆行することをやらされる場。司法試験の合格にこだわらない学問好きの人が行くのはその人の勝手だが、問題なのは、法曹になるためには、法科大学院に行くことが事実上強制されていること。「そもそも何で法科大学院制度が存在するんだ」という疑問が出てくると思うが、そこは闇が深すぎる――など、志望者目線の実感を吐露したうえで、この人物は言う。

 「結論から言うと、解決策は一つしかない。法曹人気を低下させることである。法科大学院制度の唯一の弱点は、カネである。つまり、入学者数が少なくなると教員を維持できず、破綻に追い込まれてしまうのだ」

 「そして、法科大学院に進学する人を減らすには、法曹人気を低下させるのが唯一のソリューションである。先ほど言ったように、予備試験は定員が固定されているため、『予備試験人気を上げて法科大学院人気を下げる』という戦略は決定打にはなりえない。法曹全体の人気が下がれば、必然的に法科大学院進学者は減少する。法曹の人気を下げる方法は簡単で、要するに『食えない』ことをアピールすればよい」

 法科大学院関係者が、現状に対する責任転嫁のように批判的に持ち出す、あの「ネガティブ・キャンペーン」を、むしろ事実に基づいて実践するように呼びかけているようにとれる。「法曹のデメリットを強調し、法曹志願者を激減させることで、法科大学院制度を廃止に追い込み、司法試験の受験資格をなくし、試験を一本化させるのがこの計画の要」である、と。

 そして、この人物は、この影響による法曹の質の低下について、これがあくまで一時的な措置であり、法科大学院制度が廃止された瞬間に、法曹人気が復活することは確実だから、「心配いらない」としてこの一文を締め括っている。

 アイロニーに満ちているようにもとれるこの一文には、当然、お怒りになる業界関係者もいるように思う。しかし、前記したようなこの「改革」をめぐる状況からすれば、試されているようにもとれる。この人物が書いていることと、彼のような目線が志望者の中に生まれていることを、どこまで「改革」の現実として捉えられるか、についてである。



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