司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 政治家は、謙虚でなければ話にならない――。勝手な想像だが、今度という今度は、多くの国民が身に染みて、そう感じたのではないだろうか。裁量労働制をめぐる不適切データへの政権与党の姿勢。

 

 裁量労働制で働く人の労働時間は平均的に見て一般労働者よりも短いというデータがある、と答弁した安倍晋三首相は、データへの重大な疑義で撤回。前提条件が異なるデータで、裁量労働制労働の時間を短くみせていたという疑い、しかもこのデータは過去3年、同制度の対象拡大の根拠にも使われていたという事実。

 

 しかも、調査データには1日の労働時間が24時間を超えてしまうケースも含め、これまでに異常値とされるものが、計365件見つかった。

 

 もはやボロボロである。野党は当然に法案の提出断念を求めているが、もはやそういうことではなく、むしろ私たちがこだわるべきなのは、こうした事態でも自ら撤回を選択できない、選択しない政治家の根本的な資質の問題である。野党の要求に「ゼロ回答」で、3月中の法案提出方針を、現段階で変えていない安倍政権について、メディアは今国会を「働き方改革国会」と銘打った政権へ法案撤回が大きなダメージになることが念頭にあると読み解いている。

 

 このメディアの読み解きは、正直、この事態に誰もが容易に想像できることだが、実はそれだけに、こうした異常さに慣れていくことが恐ろしい。作られようとしている法案の問題性よりも、政権へのダメージが当然のように優先されるようなことが本来あっていいわけがない。もちろん、これが彼らが使う政治主導であったり、リーダーシップであるというのならば、なおさら問題である。いうまでもないが、目的を脇においているからだ。使いどころを間違えれば、これは「独裁」と見分けがつかない。

 

 嫌な気持ちになるのは、この安倍首相自身が政治姿勢として「謙虚」という言葉を連呼してきたことだ。昨年の衆院選後の記者会見で安倍首相は「これまで以上に謙虚に真摯な政権運営に全力を尽くす」と語り、その後、閣僚からも政策や政権運営について、右へならえとばかり、「謙虚」発言が相次いだ。

 

 政治家の発言など所詮当てにならないという人もいるだろうし、こうした発言の重みそのものを、そもそも差し引いてとらえている人もいるもしれない。しかし、こうした発言にこだわり、評価の対象にしなければ、私たちは裏切られ続ける。

 

 罪深いと思えるのは、安倍首相はこの言葉の姿勢が国民から求められることも、国民の納得が得られるために効果的てあることを知っている。ただ、仮にそれが全うされなくても、自分の政治的立場が必ず危くなるとは限らない。そして、そうであるならば、実質的にこの言葉通りの姿勢でなくても、許される余地があると考えているのではないか。

 

 つまり、彼が政治的信念でやっていることでも、国民のためにやっていることでもなく、目的が別にあるからこそ、彼にとって、これは少しも恥ずかしくない。政治家として恥じることがない。そして、彼を支えている政治家たちは、この点では、同じようにしか見えないのだ。恥じない政治家は、前言に反しようが、この国の法律制定より政権への執着が上回ろうが関係ない。恥じて自ら退くなんてことはおよそ期待できない。要するに、本当の意味で「謙虚」などに、そもそもたどりつきようがないのである。

 

 もちろん、国民はなめられている。彼らには、選挙につながる関係でしかない。つまり、ここまでやっても、前言を覆そうとも、間違ったデータを使いまわそうが、選挙には影響がないという見通しが立てばよし。忘れるということを含めて、国民は彼らの通用すると考えた横暴程度に、なめられている、ことになる。そして、なめられないためには、選挙で落選させるしかない。

 

 ただ、いくら選挙がつながる関係といっても、本来は、そういうことでいいとも言い切れない。落選の脅威だけで、政治家が動くということは、結局、結果的に当選できそうならば、個々の政策について、国民の納得が得られないものを強引に押し通してもいいことになる。要は、全てが選挙に跳ね返らないことも、選挙に勝てば、民意の包括的な了承が得られたと逃げられることを分かったうえだからこそ、今、私たちが目の当たりにしているような姿勢をとるのだから。

 

 選挙でつながる関係では、私たちに求められることはやはり、忘れないことである。と同時に、矜持を持たない政治家たちと、彼らの「謙虚さ」を欠いた行動に、ゆめゆめ慣らされてはいけない。そうでなければ、本当に矜持と資質をもった政治家の選択には、えんえんとたどりつけない。



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