司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈国家主義的利益を指さない「公共の福祉」〉

 

 判決は裁判員制度が憲法13条に違反するとの原告の主張について、「憲法13条によって保護されている利益であっても、公共の福祉による制約を受けることは免れないところ、裁判員制度を含む裁判員法には合理的な立法目的と立法の必要性が認められるのであるから、公共の福祉によるやむを得ない制約である」と判示する。この判示は正に前述の滅私奉公、尽忠報国を是認することを明言しているということである。

 
 憲法13条に規定する公共の福祉とは、基本的人権を各人に平等に与えるために、人権の衝突の可能性が生ずる場合の調整のための概念であり、裁判員制度という国家目的、つまり国家主義的利益を指すものではない。公共の福祉とは簡単に言えば皆の幸せということであり、憲法13条の趣旨は己の利益のために他の人の幸せを犠牲にしてはならないということである。

 

 裁判員にならないことがどうして皆の幸せを害するというのであろうか。皆の幸せのために国民は自分の幸せを犠牲にしても裁判員にならなければならないなどとどうして言えるのであろうか。福島判決はとんでもない考え違いをしている。むしろ、そのような国家目的の故に犠牲にしてはならない利益が、個人の尊重、憲法13条の保障する基本的人権である。国家存立の基礎である国民一人ひとりに、国家目的を掲げてあの戦争の悲惨な思いを二度と味あわせることがないようにと定められたのが憲法13条である。

 
 判決のこの判示は、日本国憲法を捨て、戦前の体制に回帰させようとする、正に時代錯誤そのものというべきである。

 

 

 〈大法廷判決の上告趣意捏造問題〉

 

 私ら代理人は、この訴提起後に、つぎのことを知った。それは、前記大法廷判決が,「所論は多岐にわたり、裁判員法が憲法に違反する旨主張する」と述べ、弁護人が敢えて上告趣意から外した裁判員制度の憲法18条後段、76条3項違反の点について,それをことさらに上告趣意として構成し、つまり上告趣意を捏造してその点について合憲判断をしていたのである。私らは、そのことは、この上告趣意捏造に関与した裁判官15名の裁判員制度定着のための積極的政治的行為であり、不法行為であるとして、これを請求原因に追加した。

 
 これについてこの福島判決は何と判断したか。「当該弁護人は、裁判員法は違憲無効であるから被告人は無罪であると主張していたものである。裁判員法は手続法であり、仮にこれが違憲無効であれば、適正手続の保障の下、そのような違憲な法律に基づいて被告人が刑罰を科せられることはないのであるから、裁判員法が違憲無効であるため被告人は無罪であるとの上告趣意の中には、弁護人が明示に指摘した憲法の条項以外の条項であっても、それに裁判員法が違反すると判断されるのであれば、その旨も主張するとする趣旨が含まれていると解するのが相当である」という。

 
 上告人が上告趣意書に憲法80条1項、76条1、2項違反と主張しているのは、被告人は無罪であるとの最終主張の理由の一つに過ぎないという(因みに上告人はどこにも無罪などとは主張していない。量刑不当を主張しているだけである)。もうここまでくると、この裁判所は上記大法廷判決にかかる最高裁判所判例集も読んでいないのではないか、違憲法令審査権に関する学説、これを紹介する原告側の準備書面も読んでいないのではないかとさえ思われる、誠に杜撰極まりない判決と評さざるを得ない。



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