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 〈裁判員制度導入についての司法制度改革審議会の考え方〉

 
 2001年6月12日に公表された司法制度改革審議会(以下「審議会」という。)意見書は、その「はじめに」の中で、「本意見において、未来への可能性に満ちた我が国社会を支える基盤となる司法制度の姿を、明確に描き出すことができたものと自負している」と並々ならぬ自信を示した。

 
 意見書は、司法制度改革の柱としてつぎの3項目を掲げた。

 
 第一に、国民の期待に応える司法制度とするため、司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする。
 第二に、「司法制度を支える法曹の在り方」を改革し、質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保する。
 第三に、「国民的基盤の確立」のために、国民が訴訟手続に参加する制度の導入等により司法に対する国民の信頼を高める。

 
 第一の柱の具体的方向の一つとして、刑事司法について、裁判内容に国民の健全な社会常識を一層反映させるため、一定の重大事件につき、一般の国民が裁判官と共に裁判内容の決定に参加する制度を導入するとの方向を示し、それを第三の柱である国民的基盤の確立に結びつけ、「司法の中核をなす訴訟手続への新たな参加制度として、刑事訴訟事件の一部を対象に、一般の国民が裁判官と共に責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入する」と記す。

 
 それは、現在施行されている裁判員制度についてのそれなりの基本的理念を示すものと言えよう。

 
 ところで、これより先、2000年11月20日に審議会が明らかにした中間報告では、国民の司法参加拡充の必要性として、「21世紀の我が国社会において国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共意識を醸成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められおり、国民主権に基づく統治構造の一翼を担う司法の分野においても『公』を担う国民が、自律性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般について多様な形で、参加(関与)できるよう司法参加を拡充する必要がある」と述べる。

 
 この中間報告が掲げる国民の司法参加拡充の必要性に関する表現は、その後、意見書の「今般の司法制度改革の基本理念と方向」と標題の付された部分においても引用されている。

 

 

 〈最高裁の裁判員制度についての基本的な理解〉

 
 ところで、最高裁平成23年11月16日大法廷判決は、上告趣意とは無関係に「司法の役割を実現するために、法に関する専門性が必須であることは既に述べたとおりであるが、法曹のみによって実現される高度の専門性は、時に国民の理解を困難にし、その感覚から乖離したものになりかねない側面を持つ。刑事裁判のように、国民の日常生活と密接に関連し、国民の理解と支持が不可欠とされる領域においては、この点に対する配慮は特に重要である。裁判員制度は、司法の国民的基盤の強化を目的とするものであるが、それは、国民の視点や感覚と法曹の専門性とが常に交流することによって、相互の理解を深め、それぞれの長所が生かされるような刑事裁判の実現を目指すものということができる。」と判示した。

 
 この部分は、裁判員法として立法化された裁判員制度についての最高裁の基本的な理解内容を示すものと解される。つまり、裁判員法1条の「裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ」という規定の解釈として、「国民の視点や感覚と法曹の専門性の交流による相互理解の深化」を計ることができ、それがより良い刑事裁判の実現の基盤となると解しているということではないかと思われる。

 
 最高裁の前記判示中の「裁判員制度は、司法の国民的基盤の強化を目的とする」というのは、裁判員法1条の解釈としては明らかに間違いである。同法には制度の目的を定める規定はない。この制度については多くの人がそれぞれ勝手に目的なるものを掲げており最高裁のその判示もその一つに過ぎない(ダニエル・フット「名もない、顔もない司法」p276)。日本語の通常の解釈としては、同法1条は裁判員が刑事裁判において裁判官の仕事に関与すれば司法に対する国民の理解と裁判に対する信頼が自ずと深まることは既定のことだと述べているだけであり、最高裁の前記解釈は明らかに文理を逸脱した独自の解釈である。

 

 また、刑事裁判が国民の日常生活と密接に関連するとは如何なる理由によるものか定かではない。刑事裁判は、犯罪に関係する警察や法曹には密接に関係することではあっても、一般の国民にとってはドラマ的な話題や新聞種としての興味はあっても、大多数の国民には無縁なことではなかろうか。

 

 なお、最高裁自身が司法の国民的基盤の強化云々を持ち出すのはいかがなものであろうか。現行の職業裁判官のみで行われている殆どの裁判は国民的基盤が弱体であることを自認しいるようなものではないか。

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