司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 
 審理開始が遅延

 制度設計の中でも、大きな問題は公判前整理手続きです。

 この手続きは、裁判員制度の施行前からそれを見越して刑訴法に盛り込まれたものであり、裁判員裁判では必要的手続きとされています。今この手続きで大きな問題が起きています。先に述べた竹崎最高裁長官の発言でも明らかになった事件滞留の問題です。

  これは種々原因があるでしょうが、裁判員の負担軽減のために証拠をできるだけ絞り込み、争点を明らかにし、鑑定のように時間のかかるものは採用決定して完了させる、その結果の調べは裁判員の参加した法廷でする、何よりもこの整理手続きで重要なことは刑訴法316条の32に定める整理手続き後の証拠調べ請求の制限です。やむを得ない事由によって請求できなかったものを除いて、証拠調べ請求ができないということです。

 このような規定がありますと、証拠収集能力において検察官よりはるかに劣る弁護人はそう簡単にこの整理手続きを打ち切ることに賛成いたしかねるのは当たり前であり、特に複雑な事件になればなるほど慎重になるに決まっています。

 これも、長時間拘束することのできない素人が参加し、その都合を優先させようとするために発案されたものです。これによって、被告人の身柄拘束が長期化する、審理が遅くなり、証人の記憶も薄れる、適正な裁判ができなくなるとなったら、一体裁判員裁判というのは何なのかという根本的疑問が生まれてくるでしょう。

 しかも、この整理手続きについては、特に非公開の規定はありませんから公開していけないわけではありませんが、現実には公開されてはいません。この点について、憲法の公開規定に違反するとの指摘も当然に出ています(西野喜一「司法府の岐路」上、法律新聞2010.2.9号)。

 裁判員制度を採用したがための刑事裁判の悪しき変質の一例と言えるでしょう。

 裁判官主導を隠ぺい

 制度設計における守秘義務の問題は新聞紙上でもよく言われることですから今さら採り上げるまでもないかもしれませんが、守秘義務の中で最も問題となる評議の秘密については触れておかなければなりません。

 裁判員制度は、裁判員の健全な常識を反映させる、市民感覚を反映させることが目的だなどよくマスコミで言われますが、そのような目的で制度化されたものではなく、国民を無理矢理重大刑事裁判に参加させて、その治安維持についての意識改革をしようというところに狙いがあることは前述のとおりですから、裁判員が加わってどのような発言があり、誰が何と言ったかは問題ではない、ともかく国民が参加したという形が整えば良いということからすれば、誰が何と言ったかが秘密であるかどうかはさしたる問題ではないわけです。

 裁判員が発言し易いようにするためには必要だと言われますが、裁判員は番号で呼ばれるわけですから、そんなに厳しい義務を課す必要はありません。

 その守秘義務の最も大きい効果は何だと思われますか。市民が参加して出された結論が、裁判官が主導し、裁判官の意見に全て落ち着いたものだとしても、それは市民の良識の反映されたものと看做される、つまり中味はこれまでの裁判官の判断と全く変わらないのに、市民参加という衣装をまとったそれだけで市民の良識反映というお墨付きを得、その結果裁判官は責任逃れのメリットを得るということです。そうではないという証拠は秘密のベールに包まれて出てこないという仕組みです。

 その典型は次に述べる控訴審の問題です。



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