司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 
 〈大法廷決定と国民の常識〉
 
 今回の大法廷忌避申立て却下決定と国民の常識との間には余りにも大きなギャップがある。私は、裁判員制度の施行は刑事裁判の本質を崩壊させたと考えているものであるが、それ以上に司法そのものを変質させ、司法権の独立を損ない、司法が常に公正中立機関として独立して職権を行うものであるという、これまで抱いていた司法に対する信頼のイメージを根底から覆したという印象を持っている。
 
 
 〈大法廷裁判員制度合憲判決がつけた司法府信頼への疑問符〉
 
 前述の大法廷裁判員制度合憲判決の憲法18条に関する判断に関連して、憲法学者の木村草太氏は、「15名の最高裁の裁判官全員が平成23年判決の論証を一致して支持する事態は、日本の司法への信頼に疑問符をつけるに十分な事態である。そうした司法機関は、国民によって監視されねばならない。平成23年判決は、非常に逆説的な形で、あるいは皮肉な形で、裁判員制度の必要性を示している」と述べている(「憲法の創造力」NHK出版新書p113)。
 
 司法府への信頼に疑問符というのは単に憲法18条関係の判断(それが最高裁として判断することの許されないものであったことは、拙稿「上告趣意を捏造した最高裁」司法ウォッチ2013年12月~記載)に関してのみ言えることではなく、裁判員制度に臨む最高裁の在り方そのものについて言えることである。
 
 
 〈おわりに〉
 
 昨年4月、砂川事件に関係して、事件当時の田中耕太郎最高裁長官が1959年夏に面会したレンハート駐日米公使に対し「(最高裁)の評議では実質的な全員一致を生み出し、世論を揺さぶりかねない少数意見を回避するやり方で評議が進むことを願っている」と語っていたことが機密指定を解除された米国公文書館に保管されている米公文書で分かったと、新聞などで大きく報じられた。結果的に跳躍上告された伊達判決は、裁判官全員一致で破棄差戻しされた。
 
 先ごろ刊行された「絶望の裁判所」(瀬木比呂志著、講談社現代新書)は、「裁判員制度違憲を訴える訴訟に関する評議についても『全員一致の合憲判決を生み出し、世論を揺さぶる元となる少数意見を回避するやり方で評議が運ばれることを願った』人物ないし人々はいるのだろうか?」と記し(p82)、竹﨑長官時代の学者枠最高裁判事人選にまつわるエピソードを紹介している。
 
 「違憲のデパート」とまで言われ、前述のとおり一時は最高裁においても違憲の疑いありと考えられていた国民参加型裁判制度である裁判員制度について、憲法判断が求められた大法廷が、裁判員制度について全員一致で合憲判決を下したことは、前述の砂川事件の上告審判決の場合と二重写しになる。
 
 少なくとも現段階で、裁判員制度に関する限りは司法の最高府を司法府とは信じ難い状況にあることは、日本国民全体にとって悲劇的、且つ恐ろしいことである。



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