裁判員負担軽減のための異常な運用
昨年の7月3日、仙台で裁判員制度反対の市民集会を開きました。席上、裁判員裁判の弁護人を経験した仙台弁護士会の或る弁護士の報告を聞いて、私は大変驚きました。
そのことは私も仙台弁護士会の会報に投稿したのですが、公判前整理手続きの際、担当裁判官が弁護人に対し、証人に対する反対尋問の尋問事項書を予め出すようにと促したそうです。
反対尋問は、主尋問に対する証人の応答の内容、その態度を把握し、その場でその内容の曖昧さ、矛盾をつき、証拠価値を弾劾する性質のものであり、会ったこともない証人について予め反対尋問の尋問事項書を出すなどということは不可能なことであり、そんなことを求めること自体が異常です。
その弁護士は当然のことながら直ちに断わったということですが、何故裁判官がそのような異常な要求を弁護人に対してしたのかということです。裁判員に負担をかけないために日程を細かく決めたい、ただそれだけの理由であったろうと思います。
或る裁判所では、弁護人の尋問中にストップウオッチを示して尋問を急がせたということがあり、弁護士会が抗議の声明を出したといわれます。
裁判員制度に何らかの意味付けをしたい学者は、前述のとおり、最高裁判所の影響を受けない一般市民が参加することによって、これまでのような最高裁判所の影響力のない形の裁判所の実現を期待していますが、先ほど来お話しましたように、一般のくじで選ばれた素人にそんなことを期待するというのは、ないものねだりというよりは、そのようなことは期待できない制度であることは初めからわかっていて、こじつけの存在理由を並べて国民を騙そうとしているのではないかと疑います。
存在する「司法官僚」の問題
裁判員制度施行前の裁判に問題はなかったかと言えば、大有りです。司法制度改革というのは、そのような問題を洗い出し、それを改革していくことをいうのだと思いますが、司法審の委員にそのようなことの期待できる人は入ってはおりませんでしたし、そのような調査検討を行った形跡は見当たりません。むしろ、今の裁判は概ね順調に行われているというのが大方の認識だったのです。
私は、現在の裁判に問題は大有りだと言いました。昨年の9月、検察官による物的証拠の改ざんとその後の検察庁の対応が大問題となりました。司法制度の根幹を揺るがす前代未聞の大事件です。
それは検察庁の問題であって裁判所は違うといわれるでしょう。しかし、いずれの官署も官僚によって運営されています。一昨年、新堂宗幸教授が「司法官僚」というタイトルの本を出されました。現在の裁判官が最高裁事務総局によっていかに巧みに管理されているかを、種々のデータ、例を取り上げて綿密に論証しています。
官僚というのは、極めて高度に訓練された専門家集団であり、しかも国民によって権力の実際の行使を委ねられているために、その委ねられていることがどこかに飛んで官僚自身が権力者であるような錯覚を持ってしまいがちの存在です。
それ故、どうしても自己保身に走りがちです。そのほか、官僚制度には、閉鎖性、秘密性等の構造的といっても良いほどの問題があります。