司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

〈最高裁が挙げた合憲理由〉

 最高裁大法廷2011年11月16日裁判員制度合憲判決(以下「本判決」という)について、私は先に全般的な批判を試み、その中で、国民の行う裁判員の職務(裁判員候補者の出頭を含む。以下同判決の用語に従う)は憲法18条の「苦役」には当たらない(原文は「「苦役」ということは必ずしも適切ではない」と微妙な言い回しをしているが、それには最高裁としての種々の深い配慮があったのかも知れないけれども、結論としては「苦役」であることを否定しているのでかかる表現を使う。以下同じ)、その他の基本的人権を侵害するところも見当たらないとの判示についても批判した(ウェブサイト「司法ウォッチ」2012年6月から9月まで)。

 この判決については、西野喜一教授もいち早く厳しい批判を展開している(法政理論44巻2・3号)。

 この判決は、裁判員の職務が国民に一定の負担を生じさせることは認めながら、要旨つぎの理由により憲法18条には違反しないと判示している。

 ① その職務は参政権と同様の権限を付与するものである。何となれば裁判員法1条に定める制度の導入の趣旨は国民主権の理念に沿って司法の国民的基盤の強化を図るものであることを示すものと解されるから。
 ② 辞退の類型を定め、自己または第三者に重大な不利益が生ずると認められる相当な理由がある場合には辞退を認めるなど、辞退に関し柔軟な制度を定めているから。
 ③ 経済的負担を軽減する旅費日当等の支給という経済的措置が講じられているから。
というものである。

 〈本判決に先例的価値はあるか〉

 この判決が、裁判員の職務が苦役には当たらないし、「その他の基本的人権を侵害するところも見当たらないというべきである」と判示しているように、裁判員の職務が苦役に当たるか否かは、裁判員(裁判員候補者を含む。以下、本判決の用語に従う)の人権を侵害するものか否か、そこに憲法違反と解されるものがあるかという問題である。

 本件被告人の上告理由が、苦役に服する裁判員が参加した裁判員裁判は適正手続きに違反するものであるというようなものででもあれば別として、単なる憲法18条違反の上告理由は、被告人の罪責と事実上も法律上も関連のない主張であるから、適法な上告理由には当たらず(条解刑事訴訟法(弘文堂 松尾浩也監修)p837)、最高裁としては実体判断に至るまでの必要性はなかったと考えられる。

 裁判員の職務が苦役に当たるか、その他国民の基本的人権を侵害するものであるかの判断は、将来生ずるであろう、主として裁判員経験者の提起する過料決定に対する抗告事件、裁判員経験者にかかる守秘義務違反等の刑事事件、或いは裁判員の職務遂行によって生じる精神的苦痛に対する国家賠償請求等の民事事件においてであろうと思われる。

 本件の判断は、かかる事件の判断ではなく、裁判員裁判を受けた被告人からの上告事件における判断であるから、裁判員経験者を当事者とするそのような人権侵害を理由とする抗告事件或いは民・刑事事件においては先例としての価値を有するものとは解されない。



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