保釈率増加が注目されている。司法統計年報によれば、2015年中に全裁判所で保釈が許可された人員数は1万5446人で保釈率は26.4%、2005年に12.8%であったことを見れば、10年で倍増である。大マスコミもこれに注目し、9月5日付けの朝日新聞朝刊も、簡裁・地裁の終局前の数値をもとに同年の保釈人員1万4233件、25.7%として同様に倍増を報じる一方、勾留された被告人25・7%が保釈、罪名別では、強制わいせつや強姦などの性犯罪(保釈率32.2%10年で8.1ポイント増)、覚醒剤取締法違反(21.9%、13.8ポイント増)、殺人・殺人未遂(7.7%、5.3ポイント増)など重大犯罪での増加に注目している。
なぜ、増えたのか――。朝日は、これをすかさず司法改革の「功績」とする見方を提示している。裁判員制度の導入とともに、市民の負担軽減や裁判のスピードアップさせるために公判前整理手続きが取り入れられ、被告人と弁護人が長時間打ち合わせる必要性があることや、論点整理による証拠隠滅の可能性が減少したことを挙げている。
この見立てがどこまで正しいかはともかく、日弁連が掲げてきた保釈の促進=「人質司法」打破、という捉え方からすれば、この傾向を一も二もなく歓迎する見方をする人もいそうだし、人気のない裁判員制度のメリットとして強調したい向きもあるだろう。
ただ、この朝日の記事が読者に与えるイメージは、必ずしも「功績」「歓迎」ではないように見える。保釈中の再犯の問題である。法務省の犯罪白書をもとに、2014年には140件で10年前倍増。内訳は窃盗が46件、覚醒剤取締法違反が40件、傷害は7件、強姦1件と紹介し、保釈引受人の制度化や再犯の場合重罰化などの対策を求める識者のコメントを掲載した。さすが「改革」推進派の朝日もこの現実を無視できなかった、ということになる。
前記重大犯罪の保釈率の高さを不安要素と受けとめ、殺人・殺人未遂でも10人に1人近くが保釈されているなどとして、「保釈中に、第2の罪を犯す危険性だってある。被害者は警察・検察に賠償を求めるなど、責任を取ってもらえるのか」「冤罪は、もちろんつくってはならない。だが、“本物”の凶悪犯を釈放するのは、なんだか釈然としない」などと報じたメディアもある(日刊現代ゲンダイデジタル)
さらに、司法統計年報によれば、保釈を取り消された人員数でみても、2015年は前年を37人上回る91人で、過去9年間で最多、平成に入ってからの27年間で2番目に高い数値で、保釈そのものの抑止力の低下を危惧する見方が関係者の中にも出始めている。保釈支援に関しては、日本保釈支援協会による保釈金の立替事業に加え、全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が2013年から保釈保証書で保釈金に代える事業をスタートさせているが、全弁協の同事業に関しては保険で支えている運用実態や没取の場合の求償の徹底化への疑問など、依然として抑止力低下につながる要素を懸念する業界関係者の声も聞こえてくる。
朝日の記事では「再び犯罪にかかわると裁判官が予測したり、誰かが常時見ていたりすることは不可能だ。数少ない『例外』のために、保釈しても問題のない人を拘束するのは本末転倒だ」という、日弁連関係者の声も紹介している。しかし、裁判員制度の「功績」「人質司法打破」という切り口と、再犯の「例外」視で、果たして保釈をめぐる「不安」に向き合えるのかという気がしてしまう。