司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 国政選挙の前になると、必ずネット上や、マスコミに登場する「隠れ争点」という表現、あるいはそうした趣旨の内容を目にする度に、妙な気持ちにさせられる。争点化していない争点といった、論理矛盾のようにもとれるこの切り口は、いうまでもなく、本来、争点となるべきものへの注目を呼びかれるなかで使われるものだが、問題は、意図的に「隠されている」という方にあるように思えるからだ。

 その目的は、はっきりしている。候補者とその陣営が、当然に当選後に推進する意図を持ちながら、それをあくまで目の前の選挙対策として隠す。ただ、そこには、もう一つ、しっかりしたヨミがあるように見える。つまり、争点の「優先順位」ということを口実に、これを「隠せる」という、世論に対するヨミだ。当落を決する国民の判断材料の優先順位が低いとみればこそ、彼らは「隠れ」をしのばせる。

 「隠れ争点」という切り口は、そのことに大衆を覚醒させようとするところに目的があるともいえるが、国民にとって実は重大である案件の推進が、真正面から問われないというのであるならば、そのこと自体が、世論に対する大きな侮りと、民主主義に対する不誠実な対応といわなければならない。そして、これまで国政選挙にあって、この「隠れ争点」として、最も取り沙汰されてきたのが、憲法改正というテーマであったといっていい。

 推進する側が憲法改正を争点とするといっていた参院選が迫っている。しかし、憲法改正をめぐる議論の状況は、どうも歪だ。96条改正を掲げる安倍自民党の、公報を見ても、どこにも憲法改正は打ち出されていない。「国民的議論」の成熟度などを挙げて、急きょ「優先順位」を下げたかのように見せているが、投票を前に、今回も「隠れ争点」化を選択しているようにとれる。

 これに対し、別の改憲勢力である日本維新の会の代表は、その姿勢を批判し、積極的な「争点化」を求めているが、党公報では積極的にこれが打ち出されているわけではなく、候補者の主張にもバラツキがある。一方、護憲勢力は、「隠れ争点」化することの危機感から、むしろ公報では、積極的に争点として憲法を掲げている。

 やはり、改憲したい側にとって、選挙を前にすると、改憲は、その国民の反応を不安材料としなければならないテーマであるようにとれる。しかし、そうだとすれば、このこと自体、改憲がこの国の現実にあって、実は高いハードルであることを、彼ら自身がよく自覚していることを示す。つまり、今、世論が求めていないものを求めていることを、彼らは百も承知であるということだ。

 実は、それでも「隠れ争点」化させてでも、これを進めようとする側と、「求めていないものを求めている」ことをはっきりさせて、争点化することで阻止しようとする側の認識は、ある一つのことでは一致している。それは、主役である国民の志向だ。前者が、「アベノミクス」への期待感を含め、とにかく経済政策に優先順位を見出す、国民の選択によって、このテーマを前に進められる、つまりは抱き合わせて勝ち切れると見るのに対し、後者は、そうした国民の志向と目線が分かっているからこそ、覚醒による「争点化」を求めている。このテーマに対する、国民の見識を、いわばより信じているのは、後者ということになるが、危機感の背景に、前記国民の志向があることは間違いない。

 国民の志向といえば、もう一つ気になることがある。7月13日付け朝日新聞朝刊オピニオン面で、エッセイストの中村うさぎさんが、興味深い表現を使っている。今、わが国に見られる「マチズモ(男性優位主義)的権力者のルサンチマンが作り出す『物語』」――。

 「『俺の人生、否定されてる物語がある』って思ってるレベルなら許せるけど、『中国や韓国の横暴に対し、力を合わせて正義の戦いを』みたいな、一部の権力者にとって気持ちいい物語に国ごと巻き込んでいいのかってことよ」

 そして、これを支える「メチャクチャなことを言う自分が格好いいみたいなナルシストや、強権的で抑圧的な自称愛国者が強いリーダーみたいにもてはやされる」風潮が、今の日本に存在していることを彼女は指摘している。

 考えてみれば、まさに憲法というテーマも、改憲したい側が、この「物語」のなかで語ってきた、といえる。アメリカに押し付けられたとすることも、軍隊を持たず、戦争が出来ない国であるということも、現在の近隣諸国との関係において時代遅れであるということも、彼らのいう、これら現行憲法への「恨み節」のような「欠陥」の指摘は、「ルサンチマンが作り出す『物語』」に結び付いていたととれる。それを今、受け入れてしまう風潮が、今の日本にはあるということだ。ここにも彼ら推進する側の、ヨミがあってもおかしくない。

 われわれはヨミをもった政治家たちに、とてつもなく「侮られている」のではないか、そして、彼らの「物語」にいつのまにか巻き込まれ、拍手をおくっていないか――。選挙という機会を通じて、われわれが憲法というテーマでまず、覚醒すべき点はここにある。



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