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 〈消費者の知る権利に奉仕する営利的言論〉

 (以下、上告理由書引用の続き)

 第9 営利的言論と消費者の知る権利

 営利的言論は、何よりも、消費者の知る権利の保護という点で憲法の表現の自由規定によって守られている。本件は、まさにその保護を受けるべき典型的な場合と言える。消費者金融の利用者は、金融の素人であって利息制限法とその違反の効果について詳しくは知らない。過払い金という言葉は知っているだろうが、その法律的な性質については当然に知らないし、ましてや、改正貸金業法のことなどは知らないのである。

 上告人は、そのような消費者金融の利用者に、貸金業法19条2の権利によって、「債務者は債権者から、その取引の全履歴を取り寄せる権利がある」こと、それの取引履歴を取り寄せて、利息制限法に引き直して再計算し、現在の正しい債務残高を知ることができること、過払いがあってもなくても、その正しい残高を知ることによって、正しい返済計画が立てられることなどを、直接にATM利用者に会って説明し、そこで上告人が、その残高調査と再計算業務のサービスを提供していること、その手続き等について、広告し宣伝をしていた。その過程は、一審、原審を通しての弁論で証している。

 しかし、それ以上に消費者金融の利用者にはどうしても知らさなければいけない、メデイアやインターネットの広告などでも知らされていない消費者の利益に直結する重要なことがあり、上告人はそのことを直接ATMの利用者に知らせていた。

 上告人がATMの利用者に知らせていた重要不可欠な内容の詳細は、原審の控訴理由書等ですでに論じていて、以下、一部繰り返しとなるがその概略内容を述べる。

 まず、上告人のする「残高調査サービスの勧誘」広告は、消費者金融業者にとっては非常に困るものらしい。何故なのだろうか。

 そもそも過払金請求事件が、貸金業法改正から10年も経つのに何故終わらないのか、それは、貸金業法18条の規定により消費者金融業者から弁済と同時に債務者に渡される領収書の残高が、約定金利による残高で、それに基づいて次回の支払額、期限が記載されているからなのである。

 普通、債務者、ATMの利用者は、その金額、次回の支払額、期限が正しいものとして返済している。そのため、過払には気がつかず、完済するまでいつまでも利息制限法違反の金額を払い続ける。それがそもそもの過払金請求事件の原因なのである

 もし消費者金融業者が約定の金利に基づく残高ではなく、利息制限法に基づく計算結果を記載した領収書を、債務者の弁済時に引き渡していれば、過払金返還請求事件は無くなっていたはずである。消費者金融業者が、利息制限法に基づく計算結果の債務残高を記載した領収書をATMで出しておりさえすれば全て終わってしまっていたはずなのである。過払金の問題は、実は、業者のATMから排出されてくる領収書の記載事項に原因があった。

 そこで上告人は、債務者の、「貸金業法 19条2 帳簿閲覧権」を活用し、債務処理の受任前に、債務者の残高をあらかじめ調べ、その結果に基づいて適切な債務処理手続きを選択し、債務者依頼人と相談した上で、残高調査再計算業務を受任することにし、ATM近辺で直接利用者に向けてそのことを知らせるべく「無料債務残高調査サービス」の勧誘、広告を始めたのである。それは、改正貸金業法が施行されてから間もなくのことだった。

 過払金返還請求事件や債務整理事件の屋外での宣伝やチラシまきには、消費者金融業者は驚きもしないし、テレビCMもCMの出来る資金のある資格者は限られているから、その効果は怖れるほどのことはない。消費者金融業者が嫌がるのは、債務者、利用者が司法書士等に頼んでの事件の委任とは別に、法19条2で取引履歴を取寄せ、利制法で引き直し計算をし、債務処理事件の受任前に過払金の残高を債務者に知られることなのである。

 何故、業者が債務者に正しい債務残高を知られることを嫌がるかと言えば、通常であると債務整理を、資格者に委任し、その後に正しい残高が分かることになるが、しかし委任すれば、それを業者に通知した瞬間にブラック、取引停止となってしまう。このことが、債務者が債務整理を資格者に委任することをためらわせている。このブラック、取引停止になるか、ならないかは、債務者が一番恐れていることなのだ。そのことが、事実上、債務者の過払金請求を抑える結果となっている。その心配をしないで、債務者が過払金請求をするようになれば、消費者金融業者は、不当利得金の返還という業者にとってみれば、大きな損害を広げてしまうことになる。

 もう一つ業者が嫌がるのは裁判である。特に裁判上の和解は、債務者にとっては公開の場での和解であるから、不正も談合の余地も無い。業者は裁判官、債務者との両者と交渉しなければならない。裁判外和解よりも債務者への返還金は当然高くなる。消費者金融業者と一部ではあるが、資格者が談合して、債務者には返還金をかなり安くし、その差額を業者と資格者が分け合うなどということが行われることがある。そのような依頼人を犠牲にした資格者の談合体質がミネルバ事件を惹き起こす。

 裁判上の和解であればそのような談合や裏取引を防止出来る。それで、「無料債務残高調査」と「裁判手続き」を嫌がる。消費者金融業者ばかりではない。実は、資格者も嫌がるのである。資格者にとってみれば、債務残高に合わせた債務処理手続きを選択するために、事前に残高調査が必要となると、本件を受任する前に、半分以上は残高調査のままで終わってしまう可能性がある。それなら依頼人にリスクを言い含め残高調査せずに直ちに債務整理事件として受任した方が良いことになる。このような資格者の都合で、依頼した債務者が、資格者に委任すれば、過払いであってもなくてもブラック、取引停止となる。

 もう一つ、事前の債務残高調査をすれば、債務者の取引履歴と再計算書が、債務者にオープンになって、過払い請求の場合は、返還請求予定金額が債務者に分かってしまう。債務者に、残高となる金額が明らかとなれば資格者が業者と談合する余地も無くなってしまう。

 いずれにしても、「無料債務残高調査」と「裁判手続き」は、国民、カードローン利用者にとっては利益だが、消費者金融業者、資格者にとっては、現状では何の利益にもならず、損害ですらあるという事情がある。

 北海道から沖縄まで、現在でも相当多数の過払い状態になっている債務者がいる。その不当利得返還請求権は、年々、これから10年の時効消滅をして行くのである。このような事情を放置は出来ない。そうであれば、全国の司法書士は、上告人のように、カードローン利用者に、身近なところにあるATM近辺のところに行って、まず正しい債務残高を確認しようと消費者に働きかけるべきである

 これこそが、消費者の知る権利に奉仕する、事業者の営利的言論、広告ではないか。このような消費者への表現行為を、被上告人が規制するとすれば、それはまさに憲法21条1項の表現の自由規定違反そのものである。




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