〈違憲無効な法務大臣認可・処分を根拠にした規則・注意勧告〉
まず、国民が登記等司法書士法3条に規定された業務を、報酬を得て遂行するためには、国の所定の資格試験に合格、資格を受けた上で、司法書士会に登録しなければならず、登録した司法書士が、3条業務を遂行するには、司法書士法及びその命令及び、登録した司法書士会の、法務大臣の認可を得た会則とその委任を受けた規則等に従う義務があることを確認して、本件について述べる。
(以下、上告理由書引用の続き)
上 告 理 由
第1 上告人は東京司法書士会に所属する認定司法書士である。その職務の内容は司法書士法3条に規定(限定列挙)され、その職務の遂行については、司法書士の使命として「司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする」と規定されている(第1条)。
第2条では、第3条に規定された業務を行うにつき、その職責として「司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」とされ、登録された司法書士が法3条業務を遂行するにあたっての心構えを規定している。さらに、その3条に規定された業務を、職業とするには、所定の試験に合格して資格を取得しなければならない(4条)とされて、資格要件が定められ、試験合格後には、さらに3条に規定された業務を開業するために、日本司法書士会連合会に登録し、各地に設立されている司法書士会に会員として加入し、加入した者は、3条業務に関し会の指導連絡を受けなければならないことになっている。いわゆる、強制入会制度である。しかし、登録された司法書士は、あくまで3条業務の遂行を個人責任として遂行する一個の事業者であって、雇用契約関係にある会社員とも、特別権力関係にある公務員とも異なる立場にあり、日々の暮らしはもっぱら個人の努力工夫、責任によって生計を立てている一般の国民である。
さてこの国民は、この単位司法書士会の会員となって初めて、司法書士法、法令、命令にしたがい、司法書士法3条に規定された業務を依頼人から得て実行し、その対価として報酬を得て(会社員とも公務員とも違う一事業者であり、よって一般の事業者と同様、その事業は競争推進政策法【独禁法第一条 目的】である独占禁止法の適用を受ける)、その事業を日々の生計維持の重要な手段としていくことになる。そこが会社員や公務員とは大いに異なり、個人の生活の基礎は、自由である反面、経営リスクを独り引き受けるという厳しい面にさらされている。そこで、月給や定額の報酬の得られない事業者である司法書士の生計にとっては、営業活動、広告活動は(テレビからインターネットCM、一片のお知らせの手配りチラシ、お得意様へのお中元お歳暮配りなどに至るまで)、非常に重要な手段となっている。
そのような司法書士にとって、その主たる業務である法3条に規定された業務の内容は、公共の福祉に貢献する重要な業務とされており、そのために種々の規制を受けるが、国からはその見返りとして、法3条に規定される業務が司法書士のみに行える独占事業として公認されている。よって法3条業務については、法第2条で「司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」とされている。
このような制度を維持するために、国および会員の指導連絡機関として、司法書士会の設立が司法書士法7章で定められている。その規定によれば、司法書士会は会の自治のために会則を定める事になっており(53条)、この会則に、会員は従う義務がある。その遵守義務については司法書士法13条に規定がある。
従ってこの会則は、所属会員の権利義務にとっては、憲法41条の例外として、実質、法律同等の効力を持つことになって、登録会員に司法書士法上の権利義務を課すことが出来るようになる。したがって、会員の国民としての権利義務にも影響を及ぼしかねない会則とその改変については、司法書士法第54条によって法務大臣の認可を効力要件としている。
上告人は、そのような法務大臣の認可を得た東京司法書士会会則101条「会員は、虚偽もしくは誇大な広告又は品位を欠く広告をしてはならない」という規定につき、そのうちの「品位を欠く広告をしてはならない」という規定、およびその委任を受けた東京司法書士会会員の広告に関する規範規則第3条6号 禁止される広告「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」規定に違反したことを理由として、東京司法書士会から平成27年12月3日付けで「消費者金融会社の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という注意勧告処分を受けた。
この東京司法書士会の注意勧告が根拠とした規定について、上告人は、法務大臣の認可、処分は、憲法31条の適正手続き、法21条の表現の自由保障規定に違反していると考えており、そうすると、その無効の規定を根拠に制定した東京司法書士会会員の広告に関する規範規則第3条6号 禁止される広告「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」規定も当然に無効であり、その規定を理由とした本件東京司法書士会の注意勧告も、憲法21条違反であって、公序良俗に反する無効の注意勧告であったと考えている。
弁護士会にも「弁護士の業務広告に関する規定」があり、その第3条には禁止される広告として6項目の規定が示されており、その第3条の6として「弁護士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」という規定があり、この規定についても、この規定だけで個別事案を違法と処分すれば、当然に、「過度の広範性、漠然性、曖昧性」の問題が生じてくる。しかし弁護士会は、この「弁護士の業務広告に関する規定」の末尾、第13条で「会長は、この規定の解釈及び運用につき、理事会の承認を得て、指針を定めることが出来る。」として、その実際の運用についての委任規定を定め、その定めに基づく手続きを踏んだ上で、より具体的な「品位又は信用を損なうおそれのある広告」の具体例や理由を示している。会員はそれを参考にすればよいことになる。
その「弁護士及び外国特別会員の業務勧告に関する運用指針」においては、「第3 規定第3条によって規制される広告」の1において「・・・この弁護士の品位についての具体的な定義はないが弁護士法及び弁護士倫理で定められている趣旨からすると、弁護士の品位保持の目的は国民の弁護士に対する信頼を維持することにあると考えられる。従って、当該広告が品位を損なうおそれがあるかどうかは、弁護士の立場から判断するのではなく、国民の弁護士に対する信頼を損なうおそれがあるか否かという広告の受け手である国民の視点で判断されるものである。」とその判断基準を明らかにし、2において「広告内容で、規定第3条上で問題となる例」として、12個の具体例を示し、3においては「広告の方法及び表示形態並びに場所などが規定第3条の適用上問題となる例を8ケース挙げている。弁護士会の広告規制は多岐にわたり詳細であるが、医師会の医療広告ガイドラインもA4版8ページに及ぶ詳細なものである。