〈消費者、国民軽視は過払金返還請求でも――知らぬ間に増え続けたブラック債務者、消えてゆく不当利得返還請求権――〉
1 「5分では絶対分からない」
⑴ 「5分で分かる過払金」のテレビCMですっかりお馴染みになった消費者金融からの違法金利による過払金の返還請求、100万円も200万円も戻ってくるというのですから注目はされますが、実際に返還請求を試みる債務者の方はあまりいません。
相当な残金があるなかでそんなうまい話があるはずはないと思うのが普通ですが、ひょっとしたら、もしかしたらと、無料消費者法律相談などで、弁護士や司法書士から過払い金の存否について聞いてみたり、ネットの広告で法律事務所に問い合わせた方も多いと思います。
しかし、過払い金返還を目的に債務整理を弁護士や司法書士に頼めば、つまり委任すれば、業者からの請求は止まりますが、その瞬間に債務不履行となって、指定信用情報機関に通知されます。その結果、その後の借入が他の業者からも含め出来なくなります。もちろん住宅ローンも7年間は組めなくなり(長期ローンなので審査は特に厳格)、過払金の返還を求める消費者金融の利用者が、委任状に印鑑をいよいよ押す前には、この信用リスク(指定信用情報機関への通知登録、つまりブラックリストに掲載される)が生じるかもしれないことについて、弁護士、司法書士(資格者)は必ず説明するはずです(資格者団体からそのように告知するよう指導もされている)。
消費者は、そのリスクを考えるために、過払金の返還だけを求めて債務整理を専門家に依頼する人は、実際は少ないのです。やはり、月々の返済に困ったあげくに法律事務所に電話するというのが普通です。
(2) 「ブラックで 信用取引資格喪失を恐れる」
ところが、返済条件を緩和してもらうつもりで、ブラックになることは覚悟の上、債務整理を弁護士や司法書士に依頼すると、意外にも従来の債務が消えた上、何百万円の過払い金が戻って来るなどという事もあります。それも決して珍しいことでは無いのです。しかしその過払金回収をあてこんで、資格者(弁護士 司法書士)に頼んで債務整理などをすると、ブラックになったうえに、残債務につき一括払いを請求されるなどということにもなりかねません。それで、消費者金融、カードローンの利用者は、そのブラックをおそれて、つまり、金融取引市場からの排除を恐れるがために、貸金業法が改正されてから10年にもなるのに、いまだに払わなくても良い、利息制限法違反の過払金(超過利息)を、100ヶ月200ヶ月と業者に払い続けているのです。そのような債務者が、実は、未だに全国いたるところにいます。
あれだけ資格者達が熱心に過払金返還請求の宣伝をしているのに、その大量宣伝を無視して、未だに払わなくても良い貴重な現金を毎月1万円、2万円と、貸金業者のATMに支払い続けている人達がいるのです。資格者達が、テレビやラジオ、ネットで必死に宣伝し、ネットでは判例交え詳細に過払金請求権の内容を解説しているのに、何故、過払い状態になっている消費者金融利用者のもとにその声が届かないのでしょう。
その結果として、全国には、過払金返還請求権を有する消費者金融の利用者がいまだに何十万人といます。そのことを知っているのは、巨大な債務者データシステムを有する消費者金融業者だけで、国民も、消費者金融利用者もマスコミも、現在時点での、その正確な過払金返還請求権を有する消費者金融の利用者数を知っているものは誰もいません。又、返還請求者件数がわからないのは、資格者の過払金返還請求ブームが去って以来、過払い金返還請求権者が、通常の多重債務者の債務整理の陰に隠れてしまったからなのです。
(3) 「真面目な債務者ほど過払金返還請求権が膨らむ」
消費者金融の利用者が、業者のATMに行き借金を返済すれば、その返済の都度、領収書が発行されて来ます。そこに記載されている残高の数字と次回支払額を見て、利用者は、返済をすることになるのですが、そこに記載されている金額が一体、適法なものであるのか、不適法なものであるのか、素人には当然わかりません。
ですから、消費者金融の利用者が、その領収明細書を見て、そこに3~40万円の残高があり、返済額も1万円前後であったとすれば、その返済を続けて行くことになります。それはむしろ自然とも言えるでしょう。しかし、そのことこそが、過払い状態になっている消費者金融利用者の、何時までも返済をし続ける原因の一つともなっているのです。
一方、実は支払ったその債務が、逆に債権となっている、100万円、200万円の過払い請求権となっている、そのような場合も少なくありません。現在返済を続けている債務が、貸金業法が改正となった平成20年、それ以前に、カード払い契約をしたものによるものであれば、過払いとなっているか、すでに返済の必要が無くなっているか、その可能性が高くなります。
TVやインターネット広告で、弁護士や司法書士が5分で診断と言っているのは、借り入れが平成20年より前かどうかを債務者に聞きとろうとして言っているだけのことです。しかし、実際はそれほど簡単なものではありません。債務者にとって、現在の債務が過払いか過払ではないのか、それを司法書士、弁護士に依頼して調べるについても、その依頼の仕方によっては、そのリスク(信用情報リスク)は大きいのです。
そのリスクを避けようとするから、債務者は、過払金を払い続け、真面目な人ほど、その過払金の請求額は積み上がり、ついには800万円、1000万円ということにさえなる。請求額800万円、1000万円の人も、業者が弁済のたびに発行する領収書の残高が、138万円とか216万円になっていれば、毎月、4万5千円とか6万5千円とかを無理して払い続けて行くことになるわけです(自営業者の方に多い)。その約定の残高が、利息制限法に引きなおして計算すれば、実は0だったなどとは誰も普通には思いません。
(4)「貸金業法19条2でまず正しい残高を知る」
良心的な弁護士や、司法書士であれば、「まず業者から取引履歴を取り寄せ、利息制限法に基づいて再計算し、正しい債務の残高を確定する」、それから債務整理の方針を決めましょうと言うはずですし、そうすべきです。
しかし、実は、そのようにする弁護士や司法書士はほとんどいません。残高だけを調べて、その再計算結果を依頼人に教えて、その結果、依頼人が業者と直接交渉されても困るし、他の資格者にその案件を持っていかれても困るし、それでは収益率が低下するなどという損得勘定もあるのでしょうか。理由は分かりません。
しかし、驚くべきことには、多数の弁護士、司法書士が、債務者に「自己の取引情報を債権者から受領する権利」が改正貸金業法の19条の2で与えられていることを知らないかその活用の仕方をしらないのです。
その無知から来る誤った日本司法書士連合会の債務整理処理方針規則をのちに明らかしますが、このような誤った債務整理処理方針の結果、消費者金融利用者が、過払い金返還請求権行使の機会を失ったり、返還請求権が時効消滅したり、登録されなくても済んだのに、指定信用情報機関に登録され、いわゆるブラックとなり、カード取引が出来なくなったり、ETCカードが使えなくなったりする。貸金業法改正から10年、このような弁護士や司法書士の、いわゆる資格者の誤った債務整理処理方針、過払い金請求権の代理行使によって、どれほどの国民が損害を受けたか計り知れないですし、又、今も損害を与え、その損害を被り続けている人が、全国にどれほどいるのか想像もつきません。
過払金があるのかないのか、実際の債務の残高はいくらなのか、債務整理をするのかどうか、それを債務者が考えた時には、まずは、「業者からの取引履歴の取り寄せと利息制限法による再計算で正しい残高を利用者が知ること」、それが「債務処理方針選択の大前提」です。ためしに、それだけを資格者に頼んでみてください。
良心的な資格者であれば、まず残高を調査確定した上で、それをもとに、依頼者と債務処理の方針を決定するはずです。調査再計算だけを依頼し、調査を実行しても、貸金業法19条の2の権利を行使するだけですので信用情報に記入されることも、ブラックともなりませんし、全く安全なのです。消費者金融の利用者は、何よりもまずその正しい残高を確定してから、その結果を見て債務整理の方針を決め、それから、弁護士司法書士に代理を頼むのであれば、あらためてその時に債務整理代理を委任するのが正しい債務処理の方法なのです。
そうとすれば、債務者からの残高確認業務だけの依頼を断るような資格者や事務所には頼まない方が安全です。依頼人が、資格者との相談の際に、債務残高確認業務だけの依頼を断られた時には、その理由を資格者に聞いて見ると良いと思います。何と答えるでしょうか。明確な理由は返ってこないはずです。債務者にとっての真の利益追求手段に無関心、しょせん他人事、利益得るなら多少の損は仕方ないでしょう、資格独占団体や役所の、上から目線からくる冷淡さ、消費者、国民の権利利益軽視は、こんなところにも表れているのではないでしょうか。
(5)「改正貸金業法施行から10年後の今」
平成22年、2010年6月19日、改正貸金業法が完全施行となりました。その改正の結果、サラ金の利息は20%以下となり、違反すると刑罰が科せられることになりました。改正直後には、貸金業法19条2で取引履歴の開示が貸金業者に義務づけられたために、それまで難しかった貸金業者からの債務者の取引履歴の取り寄せが容易になり、その結果、弁護士、司法書士業界に、債務整理、過払い金の返還請求ブームが起こりました。
サラ金のテレビ広告「チワワのクーちゃん」に代わって、弁護士、司法書士の「過払金5分で診断」がテレビCMの花となりました。しかしこの資格者過払い金ブームもわずか数年(23年ごろがピーク)で去り、債務整理ブームは、いつのまにか資格者の「成年後見ブーム」にとって代わりました。
それまで無縁であった法律実務家が、高齢者福祉の分野に顔を突っ込み、その結果は、弁護士、司法書士による判断能力減退老人の貴重な財産の横領事件を頻発させるようなことになり、司法書士の作った成年後見の団体に対して、内閣府から公益資格喪失の警告を受けるという始末となりました。そのため司法書士の始めた成年後見はすっかり信用を落としてしまいました。そして平成31年の今日となり、5月1日の令和元年を迎えます。
それにしても、利息制限法の改正、改正「貸金業法」の施行の効果は大きかった。今では、あのにぎやかだった、商工ローン、日掛け金融、電話金融、マルフク、タケフジなど消費者金融業者もすっかり淘汰され、業者は減少し、当然、多重債務現象も消え去り、自己破産の声も聞かなくなりました。この不況時代にもかかわらず、消費者信用の世界は、今のところすっかり落ち着いているのです。
ですが、平成10年代の狂乱の消費者金融時代の後始末はまだ終わっていません。それどころか、違法超高金利サラ金の被害者は、今、そこにも、サラ金のATMのあるところ、どこの都市、地方にもいて、未だに、払わなくても良いのに、返済の都度、ATMから発行される業者の領収書に記載された金額を信じ、その約定残額を、返済し続けているのです。そのような人たちが大勢いる。何故、こんなことになっているのでしょうか。