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 さて、ハラリ氏の他に、目下言論界注目のトマ・ピケッティー氏とエマニュエル・トッド、この二人のフランス人の著作も紹介しておこう。トマ・ピケッティー氏の「21世紀の資本」は、大著の割には読みやすく、経済現象への実証科学的アプローチが説得力を増している。同じフランス人のエマニュエル・トッド氏の大著「移民の運命」も、ハラリ氏と同様に「文明の構造と人類の幸福」の行方について、教えてくれるが、彼は、自分が人類学者、社会科学者ではなくあくまで、フィールド観察や客観的数字的データをベースに分析ツールを作る科学者だと自認する。

 

 エマニュエル・トッド氏は、人口学的分析からソビエト連邦の崩壊を予言し、最近では、イギリスのユーロ離脱を予言的中させてNHKに取材されるほど有名になった。ハラリ氏は1976年生まれ、41歳、ピケッティー氏は1971年生まれ46歳、エマニュエル・トッド氏は1951年生まれ、66歳だ。彼らの経済分析や、社会分析、進化論的歴史観の方が、あの丸山眞男氏の有名な「超国家主義の論理と心理」より余程明晰で、しかも冗舌、ユーモア皮肉たっぷりで楽しい事この上ない。もっとも昭和の丸山氏を責めては気の毒だろう。情報のストックと分析ツールのレベルが今日とは全く違うのだ。

 

 丸山氏が批判した、ドイツのナチズム、日本の軍国主義の根には、男系長子相続制があると指摘するトッド氏の指摘には感動した。確かにあたっている。エマニュエル・トッド氏は、国家主権とナショナリテイーの重要性を再認識すべきだとし、サッチャー、レーガンの1980年代に始まるニューリベラリズムが惹き起こしたグローバリズムに、世界の人民がウンザリし始めていると指摘している。グローバリズムが作り上げた世界は、結局金融のグローバル化であって、そのことが、トマ・ピケッティー氏の資本主義の第1法則又は運命の第1原理、資本収益率は国民所得の成長率を必ず上回るという法則を現実のものにしてしまった。

 

 無産サラリーマン労働者が頑張って年間1000万円稼ぐより、100億円の資産家が金利配当で稼ぐ方がはるかに効率がよく、胃袋の大きさは無産プロレタリアートの胃袋も、資産家の胃袋も同じだから、必然的に資産家には金がたまり、そのストックは、それ自体さらに富を産んで行く。この世界の大金持ちに絶好の市場を提供したのが、我々には全く縁のない、マイクロソフトの孫さんには縁の深い、何兆円の金が毎日取引される「グローバル金融市場」なのである。ということで、富の格差は、プロレタリアの生活環境が今より貧困化するというわけではないが、このまま放置しておけば、アベノミックスを信仰しているばかりでは、今後、格差は開いて行く一方というのがトマ・ピケッティー氏の警告だ。

 

 この指摘で、翻訳版600ページの大著「21世紀の資本主義」は世界のベストセラーになった。エマニュエル・トッド氏の、トランプの大統領選勝利、イギリスのEU離脱の予言が的中したのも、ITやライフサイエンスや損得数値の計算に、おいてけぼりを食った高卒、大学中退の白人層(日本で言えば私立文系大卒、日本の私立大学は誰でも入れば卒業できるから、日本には、大学中退者は少ない、そのかわりに独身ひきこもりが多い)の存在に注目していたからである。アメリカばかりに目を向けていた、文系早稲田が占めるニッポンメデイアの予想はことごとに外れてしまった。トホホ!



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