〈日本国憲法において税金はどう使うべきか〉
ここまで日本国憲法は、主権者である日本国民が制定したものであり、納税の義務も国民自らが憲法上に宣言したものであること、国民の生命、幸福を守るために、国民が自らカネを出し合うことが必要だから、納税の義務を宣言したものであることを述べました。
さらに、日本国憲法において、税金には、①公共サービスの資金調達という役割、②所得の再分配、③景気の調整――という役割があることを述べました。
ここまで述べたことで、「日本国憲法において、税金はどう使うべきか」という問いに対する答えは、自ずと出てきそうです。それは、「日本国憲法が究極の価値としている『国民の生命と幸福』を守るために使うべきである」ということになります。
抽象的な理屈はそうなるのですが、ケースにおいて、日本国民が納めた税金が、日本国民の借金が、日本国民の生命と幸福を守るために、使われているかどうかが疑わしい場面が少なくないのです。
そのような場面に直面した場合に、主権者である国民は、どのような秤を以て、判断すべきなのでしょうか。何事においても理念と実践との間には、乖離が生まれますが、その溝の深さと距離をいかに短縮できるかが問題です。現実をいかにして理念に近付けるか。それは政治の問題ではありますが、憲法の法令の解釈、運用の問題でもあります。
国民が自分で払った税金です。それを国の機関がどう使っているのかを監視し、納得できない場合は、文句を言わなければならないのです。国民が納めた税金と国の借金を使うのは、国会の議決に基づいてではありますが内閣です。内閣の税金の使い方が納得できるものであるかどうかは、まずは国会が監督することになりますが、最終的には主権者であり、税金を納める国民が決しなければなりません。国民が最終的に判断しなければならないのです。
そのために正しい秤が必要です。前述の通り、それを判断するには、最終的には、「そのような税金の使い方は、国民の生命と幸福を守るために必要かどうか」という秤で計ることになります。
〈憲法的秤を構築し具体的事件を計る〉
まずは、憲法論としては、「そのような税金の使い方は、憲法上許されているかどうか」という秤を使わなければならないのです。つまり、憲法の各条項に照らして、そのような税金と国の借金の使い方は、憲法に適合しているか、憲法に違反していないかが議論されることになります。
憲法の条文との関係で、そのような税金や国の借金の使い方は許されるのかという問題としては、次のような問題がすぐ頭に浮かびます。
一つは、憲法9条の「戦争の放棄」、「戦力の不保持」の規定の関係で、「戦争をするための武器購入資金として、日本国民が納めた税金を使うことができるか」という問題です。もう一つは、憲法25条の国民の生存権の規定との関係で、「働く気がないため生活できない人の生活資金に税金を使わなければならないか」という問題です。まず、この代表的な問題については、どう考えたらいいのでしょうか。
このように「日本国憲法において、税金はどう使うべきか」という問題を、現実的、具体的事例に当てはめてみると、日本国憲法第3章の「国民の権利及び義務」の規定は、より深く具体的に理解することができそうです。
「これには、税金を使わなければならない」、「これには税金を使ってはならない」ということが、抽象的な理論だけに止まらすに、具体的な事例に即して、国民の基本的人権、つまり国民の生命と幸福を守るために役立つことになるかどうかを掘り下げてみることになります。
このようなことを自分で考えてみることが、生きた憲法の勉強になるのです。憲法の知識を得ることも大事ですが、自分で考えてみることが大事です。孔子の言う「学んで思わざれば即ち罔し」です。
憲法を勉強して、自分で憲法的秤を自分の中に構築し、その秤を使って具体的事件を計ってみるのです。秤は、単純明快でなければなりません。日本国憲法の秤は「個人の尊厳」です。「国民一人一人の生命と幸福」です。それに適うかどうかです。その秤を使えばいいのです。簡単です。
日本国憲法第9条は2項で、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と明記しています。この条項を素直に読めば、戦争をするための武器購入資金に税金を使うことは、憲法違反であり、許されないということになるはずです。極めて分かりやすい結論です。
ですが、現実には、武器購入資金に多額の税金が使われています。このことは、どう考えるべきなのか。これは、重大な憲法問題です。本気で考えてみるべきです。
「内閣がやっているから大丈夫だろう」ではならないのです。安倍首相とトランプ大統領が、ゴルフや飲み会をしながら決めたら、それに従うだけなどという国民では、主権者とも憲法制定権者とも、憲法改正権者とも、とても言える資格はありません。
明らかに憲法に違反している武器購入資金に税金を使うことを黙認している国会議員も、国民も憲法感覚が麻痺している気がします。
(拙著「新・憲法の心 第28巻 国民の権利及び義務〈その3〉」から一部抜粋 )
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