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 〈具体化されている三権担当者の選任方法〉

 

 憲法は、この15条により国家権力行使者選定手続きの基本的立場を宣明し、その後の条文で具体的に、立法・司法・行政3権の担当者の選定方法を定めている。即ち、国会議員については43条1項、内閣総理大臣については6条・67条、国務大臣については68条、司法府のうち最高裁判所長官については6条、最高裁判所裁判官については79条1項、下級裁判所裁判官については80条1項を備えた。この各任命規定は、15条の国民固有の権利の行使による民主的正統性の付与としての任命形式を定めたものである。

 

 安倍晋三氏の言葉が行政権を左右するのは、同氏が上記の内閣総理大臣としての選任手続きを経ているからであり、裁判官が被告人を死刑だと宣すればその効力が認められるのも、上記の任命手続きを経ているが故である。

 

 それほど、この憲法に規定する任命手続きを経ることは、立憲主義国家としては極めて重大なことなのである。

 

 

 〈憲法15条の民主的正統性を備えていない〉

 

 また、憲法がこのように立法・司法・行政3権の担当者の選定制度を定めたのは何故であろうか。そこに定めた任命形式を採ることが国家権力の適正な行使には欠かせないと考えたからである。

 

 15条の定める公務員選定の基本的手続きが上述のとおりであれば、それは前述の職務を担う裁判員という新たな公務員についても適用されなければならない。

 

 内閣総理大臣、国会議員をくじで選ぶという発想がないのと同じように、裁判を担当する者についても、そのような発想は全くなかったのである。

 

 この点が最も大切なことであるが、憲法第6章に定める裁判官とは、裁判所法に定める裁判官のみを指すものではなく、裁判という権力行使を担当する者の総称であるということである(拙著p125)。憲法80条1項は15条を受けて定められた任命形式なのであり、それによって選定された裁判担当者でなければ、到底民主的正統性を有するものとは解し得ない。司法制度改革審議会竹下会長代理が80条1項の任命形式を「民主的正統性のぎりぎりの根拠」と称したことは正当であった(拙著p128、なお竹下会長代理がそれを承知の上で裁判員制度容認に動いたことは誠に残念というほかはない)。

 

 繰返しになるが、憲法が下級裁判所における裁判担当者の国民による公務員選定権の行使手続きとして憲法80条1項を定めている以上、その手続きを踏まえたものでない者が裁判に関与することは禁じられているのであり、裁判員法の定める衆議院議員選挙人名簿から無作為抽出して選任するような手続きは憲法15条の求める民主的正統性を備えたものとは到底言えず、違憲であることは明らかである。



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