司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈竹﨑最高裁長官就任と裁判員制度〉

 

 第17代最高裁判所長官竹﨑博允氏(以下「竹﨑長官」という)は今年3月31日、任期3か月余を残して退官し、寺田逸郎氏に後事を託した。竹﨑長官は2008年11月、キャリア裁判官としては初めて、最高裁判所判事に在職することなく東京高等裁判所長官から一足飛びに最高裁長官に就任した特異な経歴の人である。

 

 このような珍しい人事が行われたのは、2004年5月28日に公布された裁判員の参加する刑事裁判に関する法律、いわゆる裁判員法の全面施行を目前にして、竹﨑長官についてその司法行政に関する実績から政府が裁判員制度の運営に最適任だと考えたからであろうことは、その特異な人事形態自体や就任当時のマスコミの報道等から間違いのないことであろう。いわば竹﨑長官は裁判員制度の申し子として就任したわけである。

 

 

 〈最高裁の裁判員制度に臨む態度の変遷〉

 

 かつて最高裁は、司法制度改革審議会の場で、裁判に参加する一般国民が評決権を有する裁判は違憲の疑いがあるということは大方の裁判官の一致した意見である旨報告していたことは今や良く知られていることである。

 

 しかし、裁判員法成立後は、同法付則2条1項において政府及び最高裁に法律の施行までの期間において制度について国民の理解と関心を深めるとともに国民の自覚に基づく主体的な刑事裁判への参加が行われるようにするための措置を講ずべきこととされたこともあったのであろう、最高裁は一転してこの制度の推進に梶を切った。

 

 

 〈裁判員制度批判の声の中での最高裁の宣伝・広報活動〉

 

 裁判員制度については夙に「違憲のデパート」と称されるほど数多くの憲法上の問題の存在が指摘され、また国民の参加意欲も低く、2009年5月の施行間近にして国会議員の中に裁判員制度を問い直す議員連盟が結成されるなど一つの政治問題にもなっていた。そのような状況の下で、最高裁は単独で、或いは法務省、日弁連と共に、その宣伝広報に努めた。

 

 私はその最高裁の行為について、以前「裁判員制度にかかる最高裁判所の広報活動について」と題して批判意見を述べたことがある(週刊法律新聞1734号、拙著「裁判員制度廃止論」所収)。私はそこで「私たち国民が最高裁を頂点とする司法機関に望む最大のものは、行政・立法機関とは常に距離を置き、常に批判的立場に立って国民の権利を守ることに徹することである。」と記した。もとより、その考えは今も変わらない。

 

 

 〈最高裁第二小法廷裁判官に対する忌避申し立て〉

 

 最高裁大法廷は平成23年11月16日、裁判員制度合憲判決を言い渡した。同事件小清水弁護人は上告趣意書提出後、当時同事件を担当した第二小法廷の裁判官について「氏名を特定することはできないが、仮に本件の審判を担当する裁判官の中に裁判員法の立案、策定、立法事務に参画ないし関与した者がいるのであれば、その裁判官全員を忌避する。本件の最大の争点は裁判員法の合憲性であるところ、裁判員法の立案等に関与するなどした者であれば、合憲という結論を出すことが当然必定であるから、刑訴法21条1項後段の『不公平な裁判をする虞があるとき』に該当する」として裁判官不特定のまま忌避申立てをした。この申立てを受けた最高裁第三小法廷は平成23年4月11日、「どの裁判官がいかなる理由によって忌避の対象となるのか具体的に示されていない」との理由でその申し立てを却下した(法曹時報65巻3号p779)。

 

 

 〈竹﨑長官に対する忌避申し立て〉

 

 第二小法廷はその後、その被告事件を大法廷に回付し、それによって竹﨑長官がその事件の裁判長を務めることになった。同弁護人は大法廷回付直後、対象を竹﨑長官1人に絞って再度忌避の申立てをした。標題の決定はその忌避申立事件に関するものである。

 

 忌避申立ての理由は、結論として「竹﨑長官は紛れもなく、裁判員裁判の敬虔な支持者であり信奉者である。同長官は『裁判員裁判は合憲である』との意見を出すだけであり、刑事訴訟法21条1項の『不公平な裁判をする虞』にぴたりと該当する」というものである。

 

 これに対し大法廷(竹﨑長官を除く14名の裁判官)は、「最高裁判所長官は、最高裁判所において事件を審理裁判する職責に加えて、(パンフレット等の配布、憲法記念日における発言等の)司法行政事務の職責をも併せ有している(裁判所法12条1項参照)ものであり、上記のような司法行政事務への関与は、具体的事件との関係で裁判員制度の憲法上の適否についての法的見解を示したものでもないから『不公平な裁判をする虞』には該当しない」旨判示した(平成23年(す)第220号・最高裁刑集65巻4号p373)。



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