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 〈哲学のない法律論は凶器となりかねない〉

 夫婦、親子、兄弟間は、最も互いに相手を思い遣りの気持ちを持って、人生をいっしょに楽しむ、まわりの人の代表と言うべき関係です。普段は、そう思って損得抜きで助け合い、譲り合って生きています。相続問題においても、その普段の夫婦、親子、兄弟が互いに相手を思い遣る気持ちを大事にして解決すればいいのです。国が国の都合で作った法律など気にしなくていいのです。

 夫婦、親子、兄弟が思い遣るのは、法律の定めによるものではありません。法律以前にあるものです。法律があろうとなかろうと、自然に発生する気持ちです。生まれた時から持っている人情というか思い遣りの気持ちは、法律以上に大事にしなければならないのです。

 「人生は、いま一瞬を、まわりの人といっしょに楽しみ尽くすのみ」という「いなべんの哲学」を実現するためには、相続問題を解決する場合においても、国が作った法律よりも気持ちを大事にしなければなりません。

 生まれた時から持っている夫婦、親子、兄弟などの親族としての情は、自然に発生するものであり、時の勢力の都合で作られた法律よりも根源的なものです。「いなべんの哲学」は、より根源的なものを大事にします。

 法律より哲学、つまり生き方が優先するのです。「哲学のない法律論は凶器となりかねない」というのは持論です。相続問題は法律論を主張する場ではなく、哲学を実践する場です。

 夫婦、親子、兄弟の情愛は、法によって作られたのでないことは、誰でも分かっている真理です。国もそのことは分かっていますので、民法の法定相続分の規定は、当事者間の遺言書や遺産分割協議書がある場合は、そちらの方が優先することを認めています。法定相続分より被相続人の作った遺言書が優先し、相続人間で作った遺産分割協議書が優先します。

 法定相続分の定めは、当事者間の気持ちが合致しないために、当事者で争いになった場合に、裁判所は法定相続分の規定に従って裁かなければならないというものに過ぎないものであることは、既に述べた通りです。


 〈深い絆で結ばれるチャンスに〉

 法定相続分で決めなければならないというケースは、当事者間の気持ちの合致ができなかったということになります。被相続人の気持ちをしっかりと遺言書で示しておけば、法律はそれに従いますし、相続人間の気持ちを遺産分割協議書でしっかり示しておけば、それで決まりです。法律や裁判所の世話などにならないで済むのです。

 もっとも遺言書を書いたり、遺産分割協議書を作るのが面倒だから、法定相続分通りにするということもありましょうが、これでは相続を、人生を楽しむアイテムにしているとまでは言えない気がします。

 法律に丸投げをしていては、相続を、人生を楽しむアイテムとして生かし切っていません。国が「戦場へ行け」という言うから、「行かなければならない」などと考え、行動していいのでしょうか。国民は、利口にならなければならないのです。そして自分の気持ちで行動しなければならないのです。

 相続を「いなべん哲学」を実現するアイテムにするためには、相続という機会を夫婦、親子、兄弟等という、この世で最も近く、最も大切な関係にある人を互いに理解し、思い遣り、納得して譲り合って、これ以上に深い絆で結ばれるチャンスとしなければならないのです。

 生半可な部分的な法律知識などを振りかざし、相続問題を裁判に持ち込んだりすることはさせたくありません。相続問題が裁判となったら、長期化します。何よりも精神的に苦痛です。

 裁判で決まっても恨みが残り、親族関係は断絶となりかねません。先日裁判で決着が付いたクライアント(依頼者)が、「深い付き合いのある人たちに『絶縁宣言書』を出す」と語っていましたが、これでは「いなべんの哲学」は、実現されません。 

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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